彼はとても我儘だ。
彼の問いにすべてYesと答えれば不満そうな顔をするクセに、私が何か言うと彼は必ずNoと言う。

「毎日稽古場と屋敷の往復なんて、お前はつまらない人生を送っているな」
今日も英司さんはなんだか少し難しい顔をして、喧嘩を売っているんじゃないかと思えるような事を言う。
「そんな事ないですよ?毎日新しい事を学んで、お屋敷にはみんなも居るし楽しくて充実してます」
最初はその言葉ひとつひとつに傷ついていたけれど、今はそんな事はない。私は余裕で笑顔を返す。
「ふん。棒状心のない奴だな」
「向上、ですよね。もうそれわざとですよね??」
不意に反らされる目の奥の、真意をそっとのぞき込む。
(えーっと・・・稽古場とお屋敷の往復じゃつまらないって事は・・・たまにはどこかに寄り道したい、って事でいいのかな??)




「一本先の通りに新しいカフェができたそうなんです。行ってみませんか?」
「どうして女はそうやってすぐ新しいモノに飛びつくんだ」
翌日早速行動に移してみた。
すると面倒くさいというような事を言いつつもどっちの通りだ、と聞いてくるあたり私の予想は間違っていなかったように思える。
私は嬉しくなって、英司さんの顔ばかり見てしまう。
「カップケーキが人気なんですって!」
「また太るぞ」
「またってなんですかまたって!!」
「おい・・・アキ!」

前方不注意になってしまった私を、英司さんが抱えるように引き寄せる。
私は危うくぶつかる所だった相手に軽く会釈をしてから、英司さんに向き直った。
「・・・すみません」
「やっぱり重くなったんじゃないか」
「・・・筋トレの成果ですー」
ぶつぶつ言いながらも、英司さんの目は全然怒っているように見えない。
「本当に・・・お前は、手がかかる」
それどころか、私の肩を抱いて再び歩き出す彼は、なんだか楽しさを隠すように口をゆがめているように見えるのだ。





狼少年の初恋
彼はとても我儘だ
でもそれは次第に目に見えるくらい分かりやすい愛情に思えて
その不器用さが愛おしくてたまらなくなる









*an afterword
清墨さん、大好きなんですけどなかなか短編が書けなくて・・・ようやく2つ目が書けて良かったです。
清墨さんを相手にするとやり取りが楽しくなっていつも同じ展開になってしまうというか・・・もっと妄想力を高めなければ!!

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