多くの人がもう眠っているであろう時間帯に、俺は忍ぶように自宅へ帰った。
しんと静まる部屋からはかすかに生活の匂いがして、俺はほっと息をつく。
彼女の気配があるこの家は、それだけで心地良い。
水を飲もうと開けた冷蔵庫の中に、ラップされた食事がたくさんあって申し訳ない気持ちになったが、同時に少し嬉しいような気持ちにもなって、それを誤摩化すようにもう冷えてしまった唐揚げをひとつつまんだ。
(これは・・・前に俺が美味いと言った時と同じ味付けだ)
そんな事を考えていると冷蔵庫が扉を閉めろと騒ぎ出したので、水を取り出して素早く閉めた。


数日分の服を用意して鞄に詰めたあと、少し悩んだが俺はPCを開いた。
彼女の隣で眠りたいがそんな時間はない。しかし、もう少しこの家に居たい。
俺がようやく家の空気に馴染み始めた頃、背後に気配を感じた。
「秀樹さん」
「・・・アキ」
ただ仕事をしていただけなのに、悪事が見つかったような気分になるから不思議だ。

「お会いするのは5日ぶりですね」
「・・・そうか?」
「着替えだけは取りにきたみたいですけど」
俺を責めているつもりなのだろうが唇を尖らせててそう言う彼女はいじけた子供のようで可愛いという他ない。
(――そうか、あの時はアキの寝顔だけ見てまた出て行ったから)
「ちゃんと食べてるんですか?」
「あぁ」
「睡眠も」
「ちゃんととっている」
「・・・うそつき」
一向に俺に近づいて来ない彼女を手招きする。
彼女は一瞬ためらったが――軽く腕を広げるとそこに飛び込んできた。

「昨日黒澤さんを家に帰してあげる為に徹夜したでしょう」
「・・・恩を仇で返すとはとんでもない奴だな」
「私がお願いしてるんです。秀樹さんの様子を教えてくださいって」
「それで黒澤とメールを?」
「はい」
「・・・それは妬けるな。昨日俺にはメールをくれなかった」
「誤摩化さないでください!」
彼女の髪を撫でる俺の手は、もう彼女の頭蓋骨の形まで覚えているのにまだ彼女を求めている。
「あんまり食べてないって」
「・・・」
「せめて野菜ジュースくらい飲んでって言ったのに。珈琲ばかり飲んでるって」
「・・・そうだったかな」
「黒澤さんが仮眠をとる前も後も、秀樹さんは起きてたって」
「悪い、これからは気をつけるから」
「秀樹さんはいつもそればっかり」
――いつもいつも俺の為に怒ってくれる彼女を見て、俺がどれだけ幸せな気持ちになるか彼女は知っているだろうか。
「横になるだけでも少しは休まるって教えてくれたのは秀樹さんでしょう?」
「そうだな」
「音なんて気にせずに、ちゃんとお風呂にも入っていってください」
「・・・あぁ」
「ここは秀樹さんの、家なんですから」





home sweet home
私だって秀樹さんに会いたいんだから起こしてください
とまだ怒り足りないようにしている彼女をもう一度抱きしめ
肺をこの家の空気で満たした









*an afterword
ブライダル編をやったら結婚してからの生活を妄想してしまって・・・!
怒られて、謝る石神さん、すごく美味しい気がしたのですがどうでしょうか。

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