私の恋人には、隙がない。
もちろん仕事は完璧にこなすし、部下を叱る事はあるが取り乱す事はない。
私の事はとても大切にしてくれているし、仕事の都合で会えなくなる事はあるが必ず連絡をくれる。
では何が不満なんだと言われると答えづらいのだけど、なんていうか・・・少し、悔しいと思う。
自分の失敗を笑われるばかりではなくたまには彼の失敗も見てみたいし、私ばかりが百面相していないで彼の表情が乱れる所も見てみたい。
・・・私は、まだ、彼のテリトリーの中に入れてもらえていない気がするのだ。



「・・・ねぇスパイ何しに来たの」
「誘われたから了承しただけだが?」
「んなの社交辞令だっつーの!俺らはアキちゃんだけ来てくれればよかったの!」
「だったらアキさんだけ誘えばいい」
「んだよアキちゃんだけ連れ出したらお前が文句言うかと思って気を遣ってやったのに!」
「私はアキさんの保護者ではない」
「ねーアキちゃーん、こんな能面野郎と付き合ってて楽しい!?」
そらさんと石神さんのやりとりを傍観していたら、突然矛先が自分に向いて驚いて箸を落としてしまった。
私がしゃがむ前にそれを拾い店員さんに箸を頼んでくれた石神さんは動きに無駄が無さ過ぎて、お礼を言う隙すらなかった。
「ホントなんなの結構飲んでるハズなのに顔色一つ変えないし!」
「お前が弱すぎるんだろう」
「サイボーグめ!」
「私がサイボーグだったら私より強い桂木さんはどうなるんだ」
「いちいち細かい!飲め、飲め飲め飲めー!!」
そらさんを適当にあしらいながらも杯を重ねた石神さんは、いつもより飲む量が多かったような気がした。










「お水飲みます?」
「あぁ・・・ありがとう」
石神さんの部屋に帰ったあと。いつもならコーヒーを淹れてくれる石神さんがソファーに座ったまま水槽をじっと眺めているので、流石に飲み過ぎたのではと思い私はグラスに水を入れて渡した。
それを喉を鳴らして飲む姿になぜかどきりとした私はコーヒーを淹れにキッチンへ戻ろうとしたが、グラスをテーブルに置いた音がエアポンプの音しかしない室内に妙に響いて、思わず動きを止めた。
私の腕を掴んだ石神さんの手は、冷たいグラスを持ったせいで微かに濡れているのにいつもとは比べものにならないほど熱くて。振り返れずに居るとぐっと引かれてソファに座らされた。

「どうした?」
視線を感じたが、私は石神さんの方を向けなかった。
(どうしたって、どうしたって、どうかしたのは石神さんじゃ・・・)
妙に張り詰めた空気に身を堅くしていると、衣擦れの音がして、それに気を取られているうちに唇がふさがれていた。
(・・・あつい)
頬に添えられた手も、少し強引に触れた唇も、すべてが熱くて何も考えられなくなる。

「・・・アキさんも、俺がサイボーグのようだと思うか?」
焦点が合わないほどの近さで、そうささやく石神さんに、いつもの少し近寄りがたい冷たさはない。
「恋人に会えなくても平気で、その間恋人が他の男に囲まれていても気にならないと?」
「ん・・・」
答えを聞く気がないのか、石神さんは再び私の唇をふさいだ。
何か言わなくてはと思うのに、思考は酸素と共に石神さんに飲み込まれてしまう。
「恋人を笑わせられない自分を不甲斐なく思ったり、簡単に笑顔にさせてしまう彼らを羨んだりしないと?」
(そんな・・・そんな風に思っていたの?)
「恋人と二人きりになっても、欲望に駆られたりしない、淡白な、サイボーグのような人間だと?」
「ん・・・ひ、秀樹さん!」
キスの合間に必死に名前を呼ぶと、石神さんは我に返ったように動きを止めた。
「・・・悪い、」
離れようとする石神さんを私はすがるように抱きしめた。


「秀樹さんって、呼んでも、いいですか?」
「それは・・・かまわないが」
石神さん・・・秀樹さんは、いぶかしむ様子を見せながらも、そう答えてくれた。
「私、秀樹さんって完璧なんだと思ってました」
秀樹さんは(おそらく眉間にシワを寄せながら)静かに私の言葉を聞いている。
「不安に思う事なんて何もないです。でも・・・嬉しい」
(ようやく、一番近くまで入れてくれた気がするから)
「秀樹さん。私、そのままの秀樹さんが好きです」
私は少し顔を上げて、まだ呼び慣れない恋人の名前を、心を込めて呼んだ。
「──アキ」
彼は嬉しそうに微笑むと、私を抱き上げ奥の部屋へと連れて行った──。





夜のすきま
少し焦れたように私に触れる手が、
もう耐えられないと言うように私を見つめる瞳が、
愛おしくてたまらなかった









*an afterword
35000hitで竹さまからいただいたリクエストの石神さんでした。
せっかくいただいた機会なのでいつもより色っぽく、を目標に頑張ってみたのですが・・・すみません、これが今の私の限界でしたOTL
色々な話が書けるように頑張ります!!どうかこれからもthink of xxをよろしくお願いします!

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