「準備出来たか?」
昴さんの声にはい、とうなずき外へ出たものの、私はすで乗りつけてある車へ向かう足を止めてしまった。
「あの・・・」
「どうした?」
昴さんはその答えをすでに知っているかのように笑っている。
「清墨さんに・・・声かけてきてもいいですか?」
「あぁ。まだ時間は平気だ。・・・けど、ちゃんと帰って来いよ?」
「当たり前じゃないですか!すみません、ちょっと行ってきます!」
わりと本気で言っているんだけどな、という言葉をかすかに聞きながら、私は離れへ急いだ。



今お父さんはロンドンに来ていて、これから私はお父さんと一緒に懇親会に出席する。
清墨さんは数日前から風邪をひいていて、それでも無理して仕事を続けていたのだけれど、昨日とうとう昴さんに目に余るから休めと言われてしまった。
清墨さんは大丈夫だと言い張ったけれど、見るからに病人の清墨さんが何を言った所で昴さんの判断は変わらなかった。
(なんであんなにムキになったんだろう・・・)
なんだか最近の清墨さんは、ちょっと変だ。



「清墨さん?入りますよ?」
扉をノックすると、中からうなるような声が聞こえた。
私はそっと扉を開けて中に入る。
「・・・大丈夫ですか??」
清墨さんがきちんとベッドに入っていて安心したが、熱が高いのか苦しそうな表情の清墨さんに、胸が痛む。
ご飯は食べれたのか、薬は飲んだのか、私は矢継ぎ早に質問をしたが、清墨さんは小さくうなるだけだ。
心配になっておでこに手をあてると、想像以上に熱かった。

(どうしよう。昴さんが色々用意してくれたみたいだけど・・・冷却シートとか、あるかな?)
おでこにあてた手を外して昴さんが差し入れしてくれたモノが入っている袋に手を伸ばそうとすると、熱い手にそれをはばまれた。
「アキ・・・」
清墨さんがかすれた声で私を呼ぶ。
「清墨さん?どうし・・・」
私が振り向くより先に手をぐっと引かれ──振り向いた時には腕に清墨さんが噛みついていた。
「な、な、な・・・!!!」
あまりの衝撃に私は完全に固まり、その間も清墨さんは力を緩めなかった。


「清墨さん、痛い・・・」
しばらくしてようやく出た声を聞いて清墨さんはゆっくりと口を離した。
そして私の手をしっかりとつかんだまま、自分の残した歯型をじっくりながめて彼は満足そうに笑った。
「な、何考えてるんですか!!」
私は全力で抗議したが、清墨さんはどこ吹く風だ。
「こんな歯型がついてるような女に、寄ってくる奴は居ないだろう」
「何事かと思われますよ!こんな・・・ストールでも隠せないような場所・・・」
「なんだ。キスマークの方が良かったか?」
熱のせいかやたらと色気のある目にじっと見つめられ、私はようやくその意図を理解した。
(これは、いわゆる、男除けとかいう・・・?)
清墨さんに負けじとその目を見つめ返すと、清墨さんは照れくさそうに首を背けた。
「犬に噛まれたとでも、言っておけばいいだろう・・・」





寂しがり屋の肉食獣
俺が自分で警護するつもりだったのに、
コンシンカイなんて行かなければいい、
目を合わせないままぶつぶつと言う清墨さんは、置いてけぼりになったことを悔やむ子供のようだった









*an afterword
1周年記念第2弾!自主的に清墨さんに挑戦してみよう!でした。
今回私が噛まれたのは彼氏じゃなく、3歳の甥っ子だったのですが・・・そういえば昔触感が良さそうだったと当時の彼氏に思いきり二の腕を噛まれたことがあります。
甥っ子もそう思ったのかな。将来が怖いな(笑)

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