blessing rain


「俺の仕事は危険を伴う。だから、付き合う事は出来ない」
意を決して俺がそう言った時、葵は予想外の反応を見せた。

「石神さんは、私のこと好きなんですよね?」
「・・・そうだが」
「じゃあ、何の問題もありませんよ!」
「言っている意味が分からないんだが」
「石神さんもしかして、家庭教師辞めるつもりですか?」
「いや・・・」
「じゃあ、一緒じゃないですか。付き合っても付き合わなくても。二人で会う機会があって、お互いが好き。そういうのを付き合うって言うんじゃないんですか?」
「・・・しかし、」
「公安の人は誰一人彼女居ないんですか?」
「・・・」
「やっぱり!何の問題もないじゃないですか」
「・・・」
「人目につかないようにした方がいいっていうのは私もそうだし・・・あれ、これってすごくお互いに良くないですか?」
「・・・」
「石神さん、もう観念して私の彼氏になってください!!」

───こうして俺は、生まれて初めて女子高生に論破されたのだった。




葵の声を思い出しながら、車を走らせる。
早いもので葵と出会ってから1年が過ぎていた。
恒例になっているらしいSPの花見に今年も出張で行けないと言うと、葵は分かりやすく肩を落とした。
半分ふざけたように不満を言っていたが、本当はそれが本心なのだろうと俺は思っていた。

出張から帰ってきた日、少し遅い時間だったがドライブに誘うと、案の定葵は声をはずませた。
(不満くらい、いくらでも言えばいいのに。確かにその全てを叶える事は出来ないが、聞く事なら出来る)
葵に我慢をさせている事を心苦しく思いながらも、俺の事で葵が一喜一憂してくれる事が嬉しかった。


「石神さん!」
小杉家の近くに車を停めると、すぐに葵が駆け寄ってきた。
俺は車から降りながら顔をしかめる。
「着いたら連絡すると言っただろう?」
「そろそろかなーって、思って今出てきたんですよ!」
「しかも、またそんな薄着をして・・・」
「えー、そんなことないですよ。なら、早く車乗っちゃいましょう!」
(・・・だんだん言う事を聞かなくなっている気がするな)
夜なのに外で待っていた事も今日は少し肌寒いのに薄着をしている事も不満だったが、葵が本当に嬉しそうに笑うから、俺は何も言えなくなった。










しばらく車を走らせていると、目的地に着く前に霧雨が降りだしてしまった。
仕方なくコンビニに寄って一番大きな傘と、葵が好きだと言っていたホットレモンを買った。
車に戻ってホットレモンを渡すと、葵はにっこり笑った後、不思議そうな顔をした。
「ありがとうございます。・・・どこかで降りるんですか?」
「あぁ。じきに着く」
「え、ほんとに?どこに向かってるんですか?」
「じきに着く」
「教えてくれてもいいのに〜」
不満を口にしながらも、ホットレモンをくるくる回しながら葵はとても楽しそうだ。
(何が楽しいのかは分からないが・・・)


目的地に車を止め、先に降りてトランクからウインドブレーカーを取り出す。
傘を差しかけドアを開けると葵にそれを差し出した。
「着ていなさい」
「え〜、せっかく可愛い格好してきたのに・・・」
「何か言ったか?」
「なんでもないですー」
葵はウインドブレーカーを着て車から出た。
そして傘の中に入ると、少し照れくさそうにした。
「どうした?」
「石神さん、相合い傘とかしてくれるんだなーって。あ、でも前も一回してくれましたよね!」
「・・・これくらい」
(いいだろう?公然とべたべたするわけには・・・いや、人前でべたべたなどしたくはないが)
俺は言葉を濁したまま、葵に歩くよううながした。

「石神さんの車ってなんでもあるんですね」
「急な出張になる事もあるからな。車にあるもので2、3日はどうにかなる」
「あ、でも傘はなかったんですね?」
「折りたたみならあるが・・・」
「え?」
(しまった、喋り過ぎたか)
「それって、私と相合い傘する為に傘買ってくれたって事ですか!?」
葵はらんらんと目を輝かせている。
「・・・」
(そんな目で見ても、何も出ないからな!)


そんな事を話しているうちに、目的のものが見えてきた。
葵も、ようやくここに来た理由が分かったようだ。

「桜・・・」
(そうだ。葵が、俺と見たいと思っているんじゃないかと思って)
そう思ったが俺はそれを口にする事は出来なかった。
(言えるか、こんな恥ずかしい事。それに・・・一緒に見たいと思っていたのは俺の方かも知れない)
時間のせいか雨のせいか、比較的大きな桜がある場所なのに今日は人気がなかった。
葵は珍しく静かに桜を見ていた。
葵の手がそっと俺の腕をつかむのを感じて、俺は何かが満たされた気がした。

───もう、葵と出会う前の自分は思い出せない。
葵と出会う前の、単調で色味のない日々も思い出せなかった。
何一つ不足のない、しかし何の面白みもない日々だった。
それが、葵が居る、ただそれだけで───。
(世界が、こんなに色鮮やかなものだったなんて)
感情が増えて、面倒も増えた。
しかしそれを嫌だとは思わない自分が居る。
大地に恵みを与えるこの雨のように。あるいは体温を奪う雨から身を守るこの傘のように。
(俺も、葵に何かをあげる事が出来るだろうか・・・)


「葵」
俺を見上げる葵の頬に手を伸ばす。

「好きだよ」

そして、俺は目を見開いて驚きを伝えてくれる正直な人に、そっと口づけた────。









*an afterword
昴さんが私のvoltageランク不動の一位だと思っていたのに、当時本編もまだ配信されていなかった石神さんが気になって気になって仕方なくなり、このお話を書き始めました。
書いているうちに石神さんの本編は配信されちゃうしキャラも増えるし挫折しかけていた所に、このちょっと人に言うのははばかられる趣味を話せる友人ができ、励まし続けてもらったおかげで書き始めてから約1年半、ようやくこのお話が出来上がりました。
本家の石神さんとは違うかも知れませんが、私の妄想なのでお許しください。
とにもかくにも、このサイトを作るきっかけとなったこのお話を完結する事が出来て嬉しいです。
お付き合いくださりありがとうございました!
20121027

 
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