彼女と電車


待ち合わせ数時間前の新宿にて。


彼女に一緒に飲もうと言われた。
現場が違っても俺が車で迎えに行って合流するのが常だが、そんな訳で今日は現地集合だ。

(いつも飲みたい時は一人でも飲んでいるのに、珍しいな)

そんな事を考えながら駅ナカをぶらぶらしていると、ふらふらと歩く彼女を見かけた。

(てっきりタクシーで来ると思ってたのに)

彼女は電車が苦手だ。
彼女は何故かいつも目的地と反対方向の電車に乗ってしまうのだ。


「みう、何してるの?」

彼女は一瞬びくっとしたが、立ち止まらない。

「駅探してるの」

「ここ、駅だけど・・・」

「でも駅いっぱいあるでしょ?」

「そうだね。何線の駅に行きたいの?」

そこで彼女は立ち止まって、途方に暮れたようにつぶやいた。

「わかんない。駅の近くって聞いたのに・・・」

「どういうこと??」

「櫂、この前差し入れでもらったケーキおいしいって言ってたでしょ?」

「ん?・・・うん、スタイリストさんがくれたやつ?」

「うん。マスターにそこのケーキがいいって言ったら、持ち込んでいいよって」

マスターというのはきっと今日行く予定のバーのマスターだろう。

「なんでケーキ??」

彼女は上目づかいで俺を睨む。

「・・・誕生日のクセに」

(可愛い!可愛すぎる!!)

「ごめん、収録とかで祝ってもらってるうちにもう終わったような気がしてたよ」

俺は彼女の気持ちが嬉しくて、たまらずぎゅっと抱きしめた。

「新宿だったと思ったのに・・・」

(でも残念ながら新宿じゃないんだ!)

「みう、ちょっと電車に乗ってデートしようか」


歌以外はちょっと音痴な俺の可愛い彼女。
(彼女と一緒なら、迷子だって楽しい)

 
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