「・・・ねぇ」
「なぁに佐絵ちゃん?」
「・・・近くない?」
「えーそうかなぁ・・・?」
(明らかに近いってば!!)
いつもなら拒否するハグをよけ損ねたあの一件以来、黒澤の距離感はさらにおかしくなった。
(しょうがないじゃんあの時はテンパってたんだから!!迎えにきてくれた事は感謝してる、けど・・・実際後日男が捕まったのはあの付近だったし)
みどりはもう何を言っても取り合ってくれない。
生暖かい目でこちらを見ながらうんうんと頷くだけ。
そう。まるで彼氏気取りだ。
朝家の前で待っている事もしばしば。
何も言わなくても私の予定を把握しているし、いつの間にか私の大学の友人全員と顔見知りになっていた。
昼休みにはこうやって学食の席を取っておいてくれる。
「佐絵ちゃん今日はカレー?」
「・・・そのつもりだけど」
「でもホントは揚げ物もいいなーって?」
「・・・・・」
「そんな佐絵ちゃんには!黒澤くんがトンカツをお裾分け!!」
そう。まるで・・・・・・。
「公然とストーカーするのやめてくれないかな!!?」
明らかになんか普通じゃないんですが!「それって公認って事!?」
「違うし!都合のいい解釈しないで」
「そんな事言っちゃって〜トンカツ欲しいクセに!」
「トンカツはもらうけど!」
「今ならこの黒澤くんもついて・・・」
「あ、それはいらない」
やっぱり黒澤は、どこまでいっても黒澤だった。
堂々と私のスケジュールから今日食べたいモノまで全てを知ろうとするこの男の、毎日写真を撮って私のアルバムを作っているらしいこの男の作る空気が悪くないなんて思っていない。絶対に思っていない。
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