「もう少し待ってくれたら送るけど・・・」

「店長心配しすぎですよ!」

「やっぱり黒澤くん呼んだ方がいいんじゃない?」

「何言ってるんですかアイツの方がよっぽど危険人物です」

「何かあったら電話するんだよ」

「大丈夫ですって。お疲れさまでした!」


(鈍いとか言われる事もあるけどさ、流石にさ、分かってるよ私だって・・・)
黒澤が私がバイトしている店に現れるのは、ストーキングの一環である事は確かだがやはり未だ捕まったという話のない不審者の為でもあるのだろう。
しかし今日は急遽バイトに出る事になったから、流石の黒澤も手が回らなかったようだ。
(今日バイトになったからとか、言えるワケないじゃん・・・)
店長には心配をかけてしまったが、私と黒澤は迎えを頼めるような関係ではない。
私は日々あの変態の行動に迷惑を被っているのだ。
(なのに、こんな時だけ都合よく呼び出すなんて、出来るワケない)

(・・・でも、なんか、怖いよ)
ひと気のない夜道は自分の靴音までが妙に響く。
一つだった靴音が、二つになった気がして、それが自分に近づいてくるように聞こえるからたまらない。
(走った方がいい?それとも、振り向いて確認した方がいい?でも、もし――)


「佐絵ちゃん!!」

目の前に急に自転車に乗った黒澤が現れて、私は心臓が止まるかと思った。

「くろ、さわ・・・」

「もーなんで連絡くれなかったの!こんな時間に一人じゃ危ないでしょ!?」

「・・・ごめん」

「無事でよかった」

(今日の私はどうかしてるんだ。上がってから一杯だけ飲ませてもらったワインが回ってるのかも知れない。そうじゃなきゃ、こんな、黒澤の腕に安心なんて――)

「佐絵ちゃん、もうちょっと太った方がいいんじゃないかな」

「・・・は?」

「もうちょっとね、ふにふにっとしてたら最高の抱き心地っていうかね」

「離れろこの変態!!!」



どこをどう聞き間違えたんですか!

「やだなぁ正義のヒーローの間違えでしょ?」

「さむいし」

「あ、白馬に乗った王子様の方がよかった?」

「きもいし」


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