「こちら、俺がアシスタントに付かせてもらってる写真家の先生!」

「透、先生なんて大げさだって。佐絵ちゃんだっけ、無理言ってごめんね」

「いえ・・・あの・・・」

(どうしてこうなった!!!)


黒澤が私を餌付けしようとするのはいつもの事だけれど、気が遠くなる程並ばないと買えないポップコーンが並ばずに食べれるなんて美味しい話を信じた私が馬鹿だった。
いや、確かに私の視界の端にはポップコーンの入った袋がある。(現地集合だったから、きっと黒澤が朝早くから並んで買ってきたんだろう)
しかし、目の前には先生と呼ばれて照れくさそうに笑う30代前半に見えるカメラを持った男性。

「無理ですよどう考えたって!私にモデルなんて!!!」

「え!もしかして何も聞いてなかった?」

「わ、私は!ポップコーンが食べられるって言うから・・・!」

「あはは。ごめんね。無理言って悪いんだけど頼めないかな?今日撮りたいのは風景がメインの写真なんだ。だから、佐絵ちゃんに写ってもらうのは後ろ姿とか、影なんだけど・・・ダメかな?」

「影・・・」

(な、なんか私自意識過剰みたいになってないか!?)

「佐絵ちゃんさえ良ければ、次は人物メインもお願いしたい所だけど」

「・・・あ、ありがとうございマス・・・」

(なんていい人なんだ!私に恥をかかせまいとリップサービスしてくれるなんて!)

「あ。でも佐絵ちゃんメインの写真なんて撮ったら透に怒られるかな?」

「そうですよ〜いくら先生と言えど佐絵ちゃんは渡せません!あだ!!」

私がおろおろしている間はだんまりを決め込んでいたクセに、風向きが良くなった途端に喋り出した黒澤をとりあえず殴って黙らせた。
こうして1日限定影モデルになった私だが準備をしている間は何もする事がなく、邪魔にならないように隅っこの方で大人しくポップコーンをかじる事にした。
(うま。流石行列が出来るだけの事はあるわ。・・・黒澤の言ってたバイトってこれかな。衣装を沢山持ってる知り合いってスタイリストさんの事??紛らわしい言い方しないで欲しいわホント。・・・にしても、黒澤、楽しそうだな。大学に居る時よりも、なんか自然な感じ)


「佐絵ちゃーん!そろそろ、スタンバイいいデスカ!?」

「・・・なんで、わざわざ私を連れてきたのよ」

「佐絵ちゃんに俺の好きな写真の世界、見せたくって」

「・・・」

「あ。終わってから例の写真撮らせてもらっていい?今日色々持ってきてもらってるんだ!」



お願いだから遠慮させてください!

(10秒前の私の気持ち、返せ!!!)


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