俺と圭さんは少し似ている気がする。
人に本音を悟られないようにする所とか。
その為に笑顔で壁をつくる所とか。
別に人と関わる事が嫌な訳ではない。
ただ・・・その方が、楽なのだ。
俺なら彼女を分かってあげられるかも知れない。
――そんな、思い上がった事を、考えていた。



あれから特に圭さんに変化はなかった。
時々ふらりとやってきては、ビールやつまみを買っていく。
店内に誰も居ない時は少し話していってくれたりする。
近づけているようにも思えるし、以前と変わらない距離を保たれているような気もする。
――俺は、距離を縮めるタイミングを、はかっていた。


珍しく日勤をした日。
太陽が完全に沈んでなんとなく辺りが静かになった頃、コンビニを出ると前から少しおぼつかない足取りで圭さんが歩いてきた。
コートの下に綺麗な色のワンピースが見える。靴も普段よりヒールが高いような気がする。
しっかりと上げられたまつげに、色づいた唇。ふわりと巻かれた髪。
――とてもスエットで砂の城を造っていた人と同一人物には思えない姿だった。
「圭さん!おめかししておでかけですか??」
今の彼女は俺を歓迎しない気がしたが、それに気付かないフリをして話しかけた。
案の定顔を上げた彼女は無表情で――今日は作り笑いを、しなかった。
「もう帰るとこ」
そう言って通り過ぎようとする彼女を引き止める為に、俺は急いで温かいお茶を買った。
それを無理矢理握らされた彼女はしぶしぶといった様子でガードレールに寄りかかった。

「どこ行ってたんですか?」
「知人の結婚式」
そう答えながら彼女は何かを堪えるように、眉根を寄せた。
「・・・楽しくなかったんですか?」
「良い式だったよ。・・・ちょっと、酔っぱらっちゃっただけ」
「えー?なんか意味深だなぁ・・・あ、もしかして元彼の結婚式だったとか!?」
冗談のつもりだったのに一瞬彼女が泣きそうな顔をしたものだから、俺はもの凄く慌てた。
「え、うそ、ほんとに??」
「違うよ。――そんな次元の話じゃない」
やばい聞きたくない――そう思ったが、もう間に合わなかった。

「憧れてた。・・・ただ、それだけ。」
憂いを含んだ横顔は、悔しいくらいに綺麗だった。
「・・・なぐさめてあげましょっか。ぴっちぴちのカラダで!」
俺は間違えた。でも止められなかった。
彼女にこんな顔をさせる男が妬ましかった。
――どうにかして、彼女の意識を自分に向けたかった。


「馬鹿にしないで」
初めて聞く彼女の冷たい声に、ぐるぐるとろくでもない事を考えていた頭は一瞬で真っ白になった。
「自分が特別な人間じゃない事は分かってる。・・・でもね、だからって自分を卑下するような生き方はしていないの」
そう言った彼女と俺の間に壁はなかった。
けれどやっと入れたその内側に、俺の居場所は無かった。
俺は、去っていく彼女のぴんと伸びた背中を。ただただ見ている事しか出来なかった。





脊髄反射は身を滅ぼす
彼女と俺は似てなんかいない。
俺は、こんなにも馬鹿で、こんなにも子供だ――。

 
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