なんの気なしに立ち寄ったレンタルショップにやけに真剣な顔でホラー映画を選ぶ女性が居た。

(それDVD選んでる顔じゃないよ・・・完全に凶器を選んでる顔だよ・・・うわ、あんなの無理矢理見せられたら気絶するかも・・・・)
「あ。」
思わず出た声に女性がこちらを向いた。
(やっぱり・・・!眼鏡してないしカチっとした格好してるから分からなかったけどこの前のお客さんだ!)
残念ながら彼女は俺を覚えていなかったらしく不思議そうな顔で俺を見ていた。
「27歳のお姉さん!」
しかし俺がそう言うとすぐに思い出してくれたようで、彼女は表情を崩した。
「コンビニ店員の少年!」
「少年は勘弁してくださいよ。俺だって成人してます」
「そっちこそ。女性の年齢を口に出すもんじゃないよ」
「すみません・・・」
たしなめるような事を言いながらも彼女は笑顔だ。
それに甘えて俺は調子にのる事にした。

「黒澤透、21歳大学生です。お姉さんの名前は?」
「川上圭、27歳。デザイナーの成り損ない、かな」
(――あれ?)
一瞬、ほんの一瞬だけ彼女の表情が曇った気がして、俺はそれに妙に興味をひかれた。

「僕、人生の大先輩にお願いがあるんですけど!」
「え・・・どうしたの急に。なんか気持ち悪いんだけど」
「圭さんって容赦ないですね」
「君ってなんかいじめたくなるタイプだよね」
にやりと笑う彼女に、もっとかまって欲しいと思ってしまう。
「透です!」
「それで?何か用かな、黒澤くん」
「圭さんってほんと・・・」
「可愛くない?よく言われるよ」
(まさか!その逆なんだけどな・・・)


「俺今就活中で・・・悩める子羊にアドバイスをください!」
「アドバイスって言っても・・・ちょっと変わった職種だし私あんまりきちんとした就活してないし・・・」
「そんな!ますます貴重じゃないですか!」

理由なんてなんだってよかった。
彼女と話してみたかった。
そうして無理矢理連れて行ったコーヒーショップで仕事の話をする彼女はとても楽しそうで、さっきの影はもうどこにもなかった。





ホラー映画は吊り橋効果を生む
そういえばホラー好きなんですかとたずねた俺に、
「凄いんだよ最近の特殊メイクって!」
と真顔で力説しだした彼女のアンバランスさから、俺は目が離せなかった。

 
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