――午前2時。
終電に乗った人々が家に着いた頃、コンビニは不意に静かになり睡魔に襲われる。
(あー寒くなってきたから肉まん切らさないように気をつけないと・・・って夜勤なんてやってる場合じゃないよなぁ・・・そろそろ就職の事考えなきゃ)
しかし自分の意地の為に学費以外の援助は断って一人暮らしをしている身だ。
少しは貯金もあるが収入がゼロになるのは困る。
(明日はなんだっけ・・・卒業生の就活レクチャーか。意味あんのかなぁアレ。あぁでも人脈は広げとくにこした事はないし)


自動ドアが開いて深夜に似つかわしくないメロディーが鳴り、俺ははっと顔を上げた。
(やば、一瞬落ちてた・・・)
入り口を見ると眼鏡をかけたスエット姿の高校生らしき女の子がゆっくりした動作で入ってくる所だった。
髪は無造作に一つに結ばれているだけで、全体的にかなりだらしない格好だ。
(花の女子高生がこんな時間にそんな格好で・・・髪の色は地味だけどもしかして不良!?)
注意した方がいいのだろうかと思いながら目で追っていると、その女の子はためらいもなくビールを手に取った。
(あちゃー・・・それはアウトですよ、お嬢さん)
深夜に出歩いている事をコンビニ店員がとがめる事は出来ないかも知れないが、未成年が酒類を買う事は止める義務がある。
(店長が出てくるような大事にならないといいけど)
奥で仮眠をとっている筈の店長の気配を探っているとレジにビール2缶とチー鱈が置かれたので、俺は覚悟を決めた。


「・・・学生証、見せてもらえますか?」
とがめるような口調にならないように注意する。
正しい行いをするのは、案外勇気が要るものだ。
「がくせいしょう?」
しかし少しも慌てる事なく首をかしげる女の子に、自分の方が間違った事をしているような気分にさせられる。
「定期とかでも、いいですよ」
――大事にする気はない。俺は、酒を買うのを止められればそれでいいのだから。
女の子は不思議そうな顔をしながらも定期を差し出した。
(やっぱりこの近くの子か。結構遠くまで通ってるんだな・・・って、)

「え!?」
俺は衝撃を自分の中にとどめておけず声を出してしまった。
そんな俺を見て、女の子・・・いや、女性、は、ますます首をかしげた。
――たしかにその落ち着いた仕草は、女子高生には似合わない。
「に、にじゅうなな・・・」
俺のつぶやきを聞いてようやくその女性は会得がいったように笑った。
「もしかして未成年だと思ったの??」
「す、すみません・・・」
俺はまだその事実を受け入れられず、呆然としたままなんとか言葉を発した。
「うわー。年齢確認とか久しぶり」
「失礼しました・・・」
「あはは。いいよ、嬉しいかったから。」
目を細めるようにして笑うその仕草は、たしかに俺よりも年齢を重ねている人のものだった―――。





深夜のコンビニは雪山と酷似している
何においても器用なのが取り柄の筈の俺は取り繕うことも出来ずに赤面した。
こんな綺麗な人を女子高生と間違えるなんて、俺は寝不足でどうにかしていたに違いない。

 
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