人が死ぬって
こんなに辛いことなのに
僕は"お前なんかいらない"そんな扱いをされてきたのだろう。
おばあちゃんがいなくなったあの日も、僕だって一緒にいたのに、
おばあちゃんだけが襲われた。
「必要のない命なんてない」
おばあちゃんはそういって胸を張った。
おばあちゃんは皆に嫌み嫌われていた僕を本当に必要としてくれていただろうか。
サーベルトの命だって必要とされていたなら、
助かっていたかも知れない。
じゃあ、僕は必要な人間?
二度も大切な人の死を目の当たりにした。
次は、また僕の側の違う誰かが死ぬのかな。
なんで、僕は死ねないのか。
なのに側で死ぬ人がいるのか。
考えれば考えるほど
わからなくなる。
わかりたくもない。
サーベルトを背負いながら
リーザス村の眼の前まで来た時
ゆっくりと意識を手放した。
−−−−−−このまま、僕も死ねたらいいのに。
大騒ぎする村人の声
抱き抱えられている感覚
ベットに置かれたようだ
「−−−なまえ、起きて兄さんになにがあったの…?」
ゼシカの声がしてやっと僕は眼が醒さめた
泣いているゼシカの顔が直ぐ近くにあった
凄まじい罪悪感
僕だけが助かるなんて……
"ドルマゲス"がやった
そう話そうとするのに
喉が渇き張り付いて、全く声がでなかった。
”水がほしい”とジェスチャーをすると
ゼシカはわかったようで、お湯を直ぐに持って来させた。
すぐに貰い口をつけた。
温かいお湯が、喉を潤し胃まで届く。
「……−−−兄さんは?」
ゼシカの声が震えていた。
僕は声をだした。
「……サーベルトは殺された。」
喉が潰れたようなひどい声だった。
泣き叫んでいたからだろうか。
「誰によ!!!!」
殺気だったゼシカは立ち上がった。
「−−−道化師ドルマゲス。」
力無くゼシカは床に座る。
「………なんで知らない奴に兄さんが殺されなきゃいけないの…?」
また、大粒の涙がゼシカの眼から零れる
「…ゼシカ…ごめんね。サーベルトを………護れなくて。」
ゼシカの手元があがった。
眼をつぶった。
殴られてもいい。
そう思った僕とうらはらに手が頭にのった
ゼシカはそっと僕を撫でた。
「…殴ったっていいのに。」
「……殴らないわ、兄さんが死んでしまったこと、凄く悲しい、でも私は−−−なまえが帰って来てくれて嬉しい。」
何も言えなかった。
ただ、涙が溢れていた。
ゼシカは僕を抱きしめて泣いていた。
「……兄さんは最後なんて言ったの?」
ゼシカが赤い眼で訪ねた。
「…ゼシカを頼む」
確かにそう言った。
僕に頼んでも、ゼシカは護れない。
僕は弱い。
「………兄さん…。」
幸せだっただろうか。
まだ、生きていてほしかった。
****
次の朝にはサーベルトの葬儀が行われた。
小さな村の人々が皆集まり泣いていた。
アローザ、−−サーベルト、ゼシカの母親は
涙を見せなかった。
我慢をしているのだろう。
本当は誰よりも悲しく思っているはずだ。
サーベルトは土の中に入っていく。
ゼシカは泣き崩れた
僕はただ埋まっていくサーベルトを見て、止めることができない涙をただ流し続けた。涙を拭くでもなく、声をあげるでもなく
涙を落とした。
サーベルトの葬儀の後、ゼシカに宿代を貸してもらいわたしは眠りについた。
ドルマゲスが憎いと思った。
王、ミーティア姫の呪いを解き
サーベルトの仇をとる
そのために、僕は生きよう。
それまで、死ねない。
死なない。
****
眼が覚めると、とてつもない孤独感。
…一人か。
何故か、息が詰まりそうになったのだ、部屋から出た。
まだ、朝早いので誰も街を歩いていない。
見渡す限りは
僕しかいなかった。
村は静かであり、川の水が流れる音しか聞こえて来なかった。
僕はいつもなら近づきたくもないはずの
川の近くに歩いた。
ブーツを放り、スボンをめくりあげ、そして足を川に投げ出した。
入れた瞬間、全身に鳥肌がたち身体中が水に拒否反応を起こした。
「……綺麗な水」
手にすくってみせ、落とした。
昨日流れた涙みたい。
ふと、思い付いたように川に顔を映した。
「………なにこれ…」
水には瞳と同じ色に変色した髪の毛が映し出されていた。
生まれた時の髪の毛の色だ。
何故、色が戻った?
気付いた時からどんどん色が戻っていったと思うと
「−−−いっ!!!!」
今度は背中に焼け付くような激痛が走った。
背中の痣が痛む。
「いっ…ぁぁ!痛いぃ……」
痛みに耐えようとするあまり、勢いよく川に落ちた。
浅い川の岩に腰をぶつけたが、そんな痛みより背中が痛かった。
「……ハァッ…!」
息を思いきり吐くと
痛みが引いていった。
なんだったんだ…
宿屋に戻り濡れた服を、起きてきた女将さんに頼み乾かしてもらっているあいだ、以前から来ていた普段着を着ることにした。
旅人の服も動きやすくて好きだがやっぱり昔から着ているこの服が好きだ。
黒いシャツ、青みがかった黒いスボン。もう汚いが白いブーツ
ミーティア姫が僕にくれたものだ。
ズボンはエイトと色違いでお揃いらしい。
−−−落ち着く。
武器を背負い、ブーツの紐をしめた。
「女将さーん、ちょっと出掛けます!服を頼みましたー」
女将さんは渇いたら呼ぶわよー!っと大きい声で言った。
これなら絶対わかるな。
そう思いながら扉を開けた瞬間だった
「……!なまえ!!」
「…………ゼシカ、どうしてこんな時間に?」
「……それは…説明が面倒だわ…一緒に来ればわかるわ!」
ぐいっと服を引っ張られバランスを崩しかけた。
それに驚いて間抜けな声をあげてしまった僕が見たのは彼女の真剣な表情だった。
***
あまりに遅い二人を待ち侘びて、ついに外に出た私。
「……サーベルト兄さん?」
村の前で倒れているのは兄さん、見間違えるはずがない。
慌てて駆け寄ったが、兄さんは血だらけだった。
思わず、人を呼んだ。
「兄さん!!!!!だれか、誰かきて!!!」
武器屋の主人と防具屋の主人がすぐに出て来てくれた。
兄さんは息をしていなかった。
理解しがたかった。
兄さんは死んだの……?
「サーベルト坊ちゃんの下に誰かいるようですよ。」
武器屋の主人が兄さんを仰向けにした。
−−−−なまえ…?
真っ赤に染まった服。身体。
白い顔。
「なまえ…?うそでしょ?」
落ちてくる涙。涙。涙。
「−−!!ゼシカお嬢様!こちらの方は生きているみてぇだ!!」
涙がなまえの額に落ちる。
……………よかった、
でも、兄さんは……
−−−−信じたくない
気がつけば、道に血が目印のようについていた。
小さい身体で兄さんをなまえが運んできたのか。
兄さんの顔を見る。
血など出し切ったように白い顔。
涙をグッと堪えた
「……とりあえず、兄さんを教会へ、なまえは宿屋に、すぐに身体を洗ってやってほしいわ。私はお母さんにこのことを伝えにいかないとならないから」
男達が兄さんを教会に連れて行く。
その後に、
宿屋の女将さんが、なまえを連れて村に入っていた。
一人外に残った私。
優しかった兄さん。
恨まれることなどあるはずがない。
ただ、悲しみの涙を流した。
−−−誰なの?
兄さんを殺したのは。
一緒にいたなまえ…?
−−−−ううん、友達を疑うなんてどうかしてるわ。
真実は何?
お母さんに伝えに行くために、家に戻る。
夜はすでに深まっていて
当然のようにお母さんは寝ていた。
「お母さん、起きて。」
何度か身体を揺らすとお母さんは眼を醒ました。
「こんな夜更けになんですか…ゼシカ、貴女は寝なさ「…信じがたいと思うけど………兄さんが死んだわ。」
お母さんは一瞬顔に?を浮かべた。
「……くだらない冗談はやめなさい。」
上擦ったお母さんらしくない声。
「……冗談じゃないわ、今兄さんは教会にいるわ。信じられないのなら、お母さんも行くといいわ。」
勝手に涙が溢れる。
止められない涙は床に落ちて染みを作る。
そういった後、すぐにベッドから立ち上がり、
寝間着のまま、お母さんは下に降りていき、扉を開けてでていった。
まさか、自分の息子が自分より早く死ぬなんて思わなかっただろう
私だって未だに信じられない。兄さんが死んだなんて。
私もすぐに家から出た。
教会に行く前に、宿屋によった。
すっかり綺麗になったなまえが眠るベッド。
隣の椅子に座った。
「………なにがあったの?」
真実は何?
彼女を起こして聞いた話しなら、『道化師ドルマゲス』が兄さんを殺したらしい。
今の私に真実と嘘の区別をつけるのは無理だった。
全部本当の話しなのに、全部嘘に聞こえてくる。
涙が枯れるほどの涙を零したあの日から一日たった。
真実を知りたくてうずうずする私にお母さんは外出の規制をかけた。
そこで、私はマルクとポルクに部屋の前の警備にあたってもらうように頼みこっそりと外にでていくことにした。
誰かが見たときにわかるように手紙を書き置きして
朝早くに出ていけば誰にもわからないはず。
そう思ってすぐに実行した。
そして家から出たところで、宿屋から出てきたなまえを見つけた。
ここで、皆に言われてもどされるのは嫌だわ………。
そう思って足をとめた。
あ、思い付いたわ。
なまえもいけばいいのよ。
「…一緒に来ればわかるわ!」
強引につれていけば、騒がれることもないわけだし!
−−−−今、真実を見に行くわ!
prev:next