小説 2 | ナノ

「顔はええんやけど、性格は気に食わへん」


伏し目がちにそう言った財前の唇は、ゆっくりと弧を描き冷たい目と反してニタリと笑った。
ただそれでも完全には笑っていなくて、言うなれば口だけ笑っているのだ。
図書室独特の肌寒い空気が更に冷たさをました気がして、眉間に皺を寄せながら私は手を擦り合わせた。


「つまり、あの子はもう用済みだって言いたいの?」

「せやな。 飽きたし、捨てても問題ないやろ」


最低な奴。吐き捨てた言葉に財前は表情を変えず、依然冷たい表情をしたそいつに吐き気がした。
つい先日まで財前は隣のクラスの子と付き合っていたが、先程の話だと飽きたらしい。つまりは用済みだ。
以前「財前くんは、私の事が本当に好きなの?」と聞かれたらしいが、財前は無表情のまま「遊べて面倒やないんやったら、誰でもええわ」と言ったらしい。それで頬を叩かれたと言うから、自業自得だ。


「それでモテるんだから、世の中詐欺だよ」

「引っ掛かる女が悪いんやろ」

「引っ掛ける男も悪いでしょう」


途中まで読んでいた本を置けば、財前は中断していた図書委員の仕事を再開させた。
無論、財前だけが悪いとは言わない。遊び人と知っていて惚れる女の子もいるのだから、その場合は女の子も悪いのだろう。
だが、やっぱり一番悪いのはこいつだと思う。


「女遊び、やめようとか思わないの?」


疑問というより好奇心から来た質問に、すぐに答える事も無く財前は暫く考える素振りをした。
誰も来ない図書室に静寂が流れ、黙り込んだ財前から視線を外す。
数秒経ったか、そんなんと口を開いた財前は私を見て鼻で笑った。


「やめるわけ無いやろ。 何で楽しみをやめなあかんねん」

「…答えは予想してたけど、あんたいつか刺されるよ」

「その時はその時やろ」


それまで楽しく遊ばせて貰うわ。そう付け加えて再び唇は弧を描いた。
あの唇で何人とキスしたのか、その手で何人に触れたのか。そんなくだらない事を考えながら、本を手に取り読んでいたページを開いた。

その話は学校で出会った男女が結ばれる話で、まるで夢のような甘い話だった。
くだらない、そんなんまやかしやろ。確か以前財前に紹介した時、読み終えた彼は批判という名の感想をくれた。
正直私もこの本は嫌いだ。キラキラした青春なんて胸焼けがする。


「また、それ読んでるんか」


頬杖をつきながら指差したのはこの本で、それ三回目やろと溜め息混じりに呟いた。
数えてたの、と問えば俺のいる所で読んどったからと目線を合わせず返ってきた。


「まさか、そんな恋愛がしたいとか阿呆みたいな事考えてるん?」

「馬鹿にしないで。 この本嫌いだけど、内容を読んで馬鹿にするのが楽しいの」


その言葉に、今度は財前が「最低やな」と言った。
お互い様でしょう? と返せば、返事の代わりに嘲笑う声が聞こえた。
いいじゃない、財前みたいに女の子を馬鹿にするわけじゃないから。
心の中でそっと言い訳をして、本の中に書いてある文章に嘲笑した。


「最低って言うなら、普通止めるやろ」

「何を? 女遊びを?」

「おん」

「私が止めたって、止める気無いじゃない」


確かに。呟かれた言葉に溜め息をしながら、言われた事は正論だなと考える。
寒かったのか、窓を閉めに立ち上がった財前の背中を見ながら、なぜ止めないのかを考える。いや、簡単な事だ。いつか自分からやめてくれるのを、待っているんだろう。


「ほな、提案があるんやけど。 俺達付き合わへん?」


広がる青空を背に振り返った財前は、ゆるゆると唇を三日月のようにして、冷たい目をしたまま微笑みを浮かべた。
いつか、言われるだろうと思っていた言葉に私は返事をせず、視線を落としながら静かに口を開いた。


「お断りするよ。 遊んでる人とは付き合いたくない」


あくまでも穏やかに言った言葉に、財前は予想していたかのように表情を崩さず本棚へもたれ掛かった。
本当は、頷きたいけど気持ちを押し殺した自分に、今度は私自身に対して吐き気がした。


「待っていたかったんだけどなぁ…」

白々しく広がる青空を横目に、最悪な私と最悪な財前がいつか結ばれる夢を想像する。この本のように。
だが私達が結ばれる日まで、いつまでもこの気持ちのまま待てそうにない。こんな苦しい思いをするのなら、いっそ離れてしまおうか。
そんな私の気持ちさえ見透かしたように、財前はただ薄笑いを浮かべていた。
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