小説 2 | ナノ




「お前もほとほと、懲りねぇ女だな」

私の前髪を掴んで無理矢理顔を上げさせたローは、そう言って笑みを深めた。何とも比喩のしようが無い、あやしげ、を百倍にしたような不吉な笑みだ。ローに夢中になる女の子たちは、こんな悪魔のような男のどこに惹かれるんだろう。

「何度この船から脱走しようが、俺から逃げられた事なんてねぇだろう」
「……」
「そろそろ、首輪が必要だな」
「したいならすればいい。――私がそんなもので拘束されるもんか」
「へえ……そうか。」

私の前に屈んでいたローは腰を上げ、同時に私の腕を掴んで無理矢理起き上がらせた。隙をついて逃げようと試みていたが、一瞬作られた隙は直ぐに殺気で埋まる。手加減などとは程遠い力で私の襟首を掴んだローは、叩きつけるように私をドアに押し付けた。
逃げたいだろ、逃がさねぇよ。悪魔の囁きとはこのことだ。互いの唇が触れ合いそうな距離にいるローに、不覚にも、心臓が鳴った。

ローの唇は、私の唇には触れずに顎と、首筋をなぞる様に降りて、鎖骨の辺りで止まった。ヂリッと火傷をしたような痛みが一瞬箇所を襲い、何をされたのか理解した私は、視界がぼやけるのを必死で堪えた。


「十分、首輪替わりになんだろ」
「っ……さい、あく」
「フフ、褒め言葉だ。―――なあ、」

ローは私の名前を、心の底から愛おしげに呼ぶ。(いつも。そう錯覚してしまう。)
今度こそ私の唇を奪ったロー。その拍子にぽろりと零れた涙に、ローは、いつだって気付かないふりをする。二人の隙間で吐き出された吐息に混じって、愛してる、と、そんな言葉が聞こえた。答えてはいけない。だって、ローはいつも私に愛を囁きながら、夜はあの女性を抱くんだ。



そんなにやさしいとすぐ死体になっちまうよ

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