小説 2 | ナノ

「早急に贄でもなんでもたてなければ」
「この村は終わってしまうぞ」
「贄と言っても、誰を立てるんだ」

遠い遠い昔。誰の所為でもなんでもなく、何処にでもある不幸の数々。例えば、相次ぐ天災、それに伴う飢饉や飢餓、そして、多くの人の死。そこにいる誰もが恐れ、それからわかっていた。村の中の誰に非があるわけではなく、人の手に及ばぬところのことであるのだと。だからといって、このまま放置するわけにはいかず、連日連夜村の重鎮たちによる会議によって今後のことが話し合われていた。だが、人の手にあずかり知らぬものをどうする事も出来ずに、考えは別のところへと移ってしまったのだ。なにもそれは珍しいことではなく、この時代であればほんの些細なことである。

「では、孤児の丁はどうですか?」

静けさ満ちていたその場は、誰かがいったその一言で、すぐに活気で溢れた。そうだ、孤児のあの子なら誰も文句は言わないだろうし、恨む者も悲しむ者もするいない。そうしなければならなかったのだ。そう言えば村人もきっと納得してくれるだろう。聡明だが、子供は子供。祭壇へと何も言わずに連れおけばどうすることもできないだろう。一向に進むことのなかった話し合いは誰かの言葉により終結にむかった。
話を進めたその声の主が誰であるかは、その後村人の誰一人として覚えていやしなかったけれども。


▽▲▽▲


「泣かないで下さいよ、これから好きなこといっぱいできるんですよ?」

だれ?
石造りでできた祭壇と言う名の檻にて倒れている少年が聞こえてきた声に、必死に言葉を返そうとぱくぱくと口を動かすものの、うまく声は出て来ずに、掠れたような空気だけが口から零れてくる。少年の体はいつの間にか横に伏せてしまっており、必死にこじ開ける瞼は随分と重く感じる。開けられたところで見える景色は何も変わっておらずぼんやりと松明の灯りに照らされた無機質な祭壇だけであった。だけど、たしかに少年以外の声は其処に響く。

「生きたいですか?」
「…」
「まぁ、君には死んでもらいますけどね」

にこりと誰かが笑ったような気がして、喉も体も何一つ動かすことが出来ずに視線だけを動かすが、少年には何も見えることはなかった。誰かの声が聞こえたからか、少年の現実が一気に押し寄せてくる。一体何日食べ物を採っていないのか、空腹が襲う。水もなにもなく、体が重たい。恨むつもりなんてなかった。だけど、そんなの、今となっては汚い感情への言い訳だったのだ。怨み辛みがどろどろと体の奥底で溜まっていく。なんとも言えない気持ちが少年の小さな体に募る。死にたくない。そう思えどもどうしようもない。むしろ、今この苦しみから逃れられるなら死んでもい。そうとさえ思ってしまう。

「大丈夫ですよ」

もう、瞼さえ開けられない少年の頭に、そっと暖かな何かがのせられた。それは、確かに誰かの手の温もりで、感じたこともない暖かさに知らず知らず目尻から雫が零れていく。そんな少年の頭を撫でる誰かは、小さくなって消えていく少年の命に、愛おしそうに微笑んだ。この時代、何処のどいつが死のうと興味なんてなくても、少年だけは別だった。腐ったような目の中にある、鮮烈な生や聡明さに惹かれたのだ。

「さあさ、ここにお集まりの皆さん。みんなで頑張れば、鬼になれるんじゃないですかー?」

瞬間、何もないはずの祭壇の中で、黒い淀みは蠢き、常人には見えない聞こえない何かは、確かに少年の元へ集まり、
そして、小さいながらも確かに脈うっていたはずの少年の心臓は鼓動は、鳴りやんだ。

朝起きたらぼくは生まれ変わっている


「鬼灯、なんて、閻魔大王もなかなか乙な名前をつけますね」
「…君には怒っているんだからね。鬼灯くんの村の人を唆して、さらには鬼灯くんが鬼になるように仕向けたのも君だっていうじゃないか」
「嫌ですね、人聞きの悪い。…いや、鬼聞きの悪い。彼は地獄にとって手放せない人物になりますよー?」
「地獄のためとでもいうのかい…」
「まぁ、そんな気はさらさらなかったんですけどね」

では何故?そう問いかけた大柄の鬼の視線を明らかに無視した青年は、ふと目線を遠くへと向けた。そこでは小さな鬼たちが、和気あいあいと楽しそうにしている。その中にはある村で丁と呼ばれ、閻魔によって鬼灯と名付けられた少年がいた。青年はその姿を見つけると静かに微笑んだ。村人に淘汰される可哀想な少年を鬼にしてあげたのだ。少年を救うにはこうするしかなく、ほかにどうしようもなかった。…とまで、言い切ってしまうには笑いしか浮かばないけれど。感謝されるいわれはあっても、蔑まれるなんてもっての外だとそう思っている。そんなことを言ってしまえば、隣にいる心優しい鬼がもっと怒り始めるだろうから青年は口にすることはなかった。だけれど、敢えて言うならば。

「あの子の、…鬼灯くんに対する俺からの愛ってものですよ」

よく言うね、と呆れたような声には聞こえなかったフリをして。だけど、青年にとってあの子を傍に置いておきたかったんだから仕方ない。さてはて、事実を知った少年が、青年に対してどう考えなにをするのやら。恐いなぁ。なんて思ってもいやしないことを考えながら、青年は少年に向かって歩み寄ると少年の頭に手を乗せて、軽やかに口を開いた。

「やあ、鬼灯くん。調子はどうですか」
「…まぁまぁです」




鬼と人間のMIX、と比喩でもなんでもなく語る少年が数百年後、閻魔大王を操るほどの補佐官になって活躍するのは、また別の話。
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