「頼むから、お前は俺の前から居なくなるな」
ぎぃときしむベットの上でリヴァイはそう言った。彼の親指が私の頬の傷を撫でると少し傷が痛んだ。それにしても巨人ももう少しマナーを守って欲しいもんだ。兵士とは言えど私は女なのだ。頬に傷なんかつけて、もし嫁にでも行けなくなったら責任取ってくれるのか。そんな風にごてごて考えていると、リヴァイは私を抱き寄せた。そしてもう一度耳元で囁くのだ。「頼むから、お前は俺の前から居なくなるな」と。
△▼△
「ねぇねぇ、もう私こんな書類やってらんないんだけど」
「頑張れ〜頑張れ〜ハンジ分隊長様〜」
ぐってえと机の上の書類パラダイスにハンジは突っ伏した。こんなにも書類が溜まっているのはハンジの「後からやれば良い精神」のたまものであった。まぁ今回は、リヴァイ班に負傷者が出たせいで、その分の書類がこのハンジ班に回ってきているという事もあるんだけれど。
「リヴァイもさー、班員怪我したからってこっちに仕事押し付けんなよー」
「しょうがないじゃん、皆怪我したんだから。リヴァイも毎日お見舞いとかで忙しいし」
今回の壁外調査も酷かった。私も怪我を負ったが、リヴァイ班はもっと酷かった。まぁあの班にも新兵が入ってきたばかりだったし、しょうがないか。次は小便漏らすなよ、とからかえば顔を真っ赤にさせてプンスカ怒ったペトラとかね。
「リヴァイでもお見舞い行ったりするんだ」
「毎日行ってる。もう私も怪我すれば良かった、って思うくらいに」
ぎち、とボールペンを握る。ハンジは書類から目を離して、何か言おうと口を開いたくせにゆっくりと閉じてしまった。ハンジは昔からこういう人間だ。いつも何か私に物申そうとするのにやめてしまう。いつまでたってもハンジの本音が私の鼓膜を響かせる事は無い。
「むしろ、死んだ方が良かったかもね」
いつかきっとリヴァイの目の前で、死んでやるの。一生私の事を忘れられないように。記憶にこびりついて離れないようなそんな最高にクールな死に際をいつかリヴァイにあげたいの。
「私さー、同期だから君の事ほんとに気にかけてるんだけどなぁ」
「なんだ、ハンジなら分かってくれると思ったのに」
「ほんと君のこと分かんないよ」
あーあー、ほんと分かんないと書類の事なのか私の事なのか、それともどちら共なのか。ハンジは書類に目をやりながらそう言った。
「ハンジは私の思い通りにならないから、すきよ」
「嫌なもの言いだなぁ、まるでリヴァイが君の手中にあるみたいだ」
ハンジの顔は、書類に隠れて見えない。ハンジからも私の顔は見えない。きっとハンジは私の顔が見たくなくって書類に目を通しているフリをしている。だから私はハンジの大嫌いな口角をたっぷりと上げた笑顔でこう言ってみせるのだ。
「そうね、最近リヴァイが夜も優しくてもどかしいの」
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