わたしのなまえを

ホグワーツに入学する少し前、私はまだ小さい赤子の頃に拾われた子なのだと、アルバスから聞いた。
私の実父がアルバスで無い事などわかってはいたし、血の繋がりが無かった事に対して驚きはしたが、然程ショックは受けなかった。

そんな事実があったとしても、現に今私はこうやって大切に育てて貰っている上に、アルバスだけで無く、母親のように接してくれたミネルバさんや周りの人達にも愛情を貰っていると思えるから。

私の出生や本当の両親について詳しい話は知らされていないが、アルバスが言わないという事は私に必要な事ではないのだろう。そう理解した上で、寂しいとは感じなかった。
ホグワーツと繋がる自室で生活をしていた為、入学前から先生方、魔法省の人達と交流し知識を貰い、寂しさ等感じる暇すら無かった。

大切な子供だと言ってくれるアルバス。娘が出来たようで嬉しいと言ってくれるミネルバさん。決して道を間違えるなと言ったスネイプ先生。私は彼等のような立派な人間になる為に、期待と夢を胸にホグワーツへと入学したのだ。



そんな私が、物心付いた頃から何度も見る夢がある。銀色に輝く満月の夢。その下で寂しそうな表情を浮かべる女性は、いつも私に背を向けたまま消えてしまう。いつか、彼女が振り向いてくれる日が来るのだろうか。その時、アルバスや私が知らない自分自身の何かを知る事が出来るのだろうか。

「コウキ」
「わっ…ハリーか、びっくりした」
「ごめんごめん、これからルーピン先生のところに行くんだけど、君も行かない?」
「勿論行く!」

入学してすぐにハリーと仲良くなった。自分の名前に寄ってくる人達を煙たそうにしている姿が気になり、私から声を掛けたのだ。
他にも、勉強好きな面で意気投合したハーマイオニー、ハリーの紹介でロンやネビル、他の同寮の人達とも打ち解ける事が出来た。

毎日が楽しくて、冒険や校則違反も沢山した。見知った先生ばかりでも、私の事を一生徒として見てくれるお陰で叱られたり罰則を受けることも屡々。
それでも私達の行動は間違っていないと胸を張って言い合える仲間との生活を、アルバスは黙認してくれているのだろう。
隠し部屋も見つけた。危険も皆で乗り越えた。ホグワーツの危機だって救った。そんなハリー達と2年を過ごし、3年目で私に少し変化があった。

あの満月の夢を頻繁に見るようになったのだ。
寂しそうに肩を落としていた女性が今は力強く満月を仰ぎ見ている。その後ろには、怯えるように小さく体を丸めている銀色の人狼。危ない!と声を上げようにも喉は震えない。だが、私の音無き声に反応した様に女性が振り返ろうとする―――

そこで目が覚めてしまう。どんなに夢の中に残りたいと願っても、必ず同じ場面で夢は終わってしまうのだ。

私の人狼の知識など浅はかな物だが、銀色に輝くあの人狼はとても美しく見えた。

「コウキ?」
「あ、ごめん、何だっけ?」
「また思考の彼方に飛んでいたみたいだけど、大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫」
「最近忙しそうだね。ハーマイオニーに似てきたんじゃない?」
「二人は本当に仲良しだね、交際を?」
「え、ち、違いますよ!友達!」
「そんな否定しなくたって…」
「はは、残念だね、ハリー」

いつも優しく笑いかけてくれるこの人は、今年から防衛術を教えてくれるルーピン先生。
今までの防衛術の先生で一番わかりやすく、楽しい授業展開を見せてくれる。

ハリーの両親と同期だった事をひょんな事から知り、アルバスがルーピン先生をホグワーツに呼んだ時にその事を思い出したのだ。それを口が滑ってハリーに言ってしまったんですごめんなさい。

初めてコンパートメントでルーピン先生と対面した時、心臓の鼓動が大きくなるのを感じた。目が離せなくなり、声を聞きたいもっとその姿を見たいと願った自分が居た。まるで一目惚れのような衝撃を受けたのだが、相手は親子ほど歳の離れた先生だ。まさか、と自分を誤魔化す事しか出来なかった。

「ルーピン先生、この間の写真…見せて頂けませんか?」
「ああ、構わないよ」

ハリーの両親、そして…あの人。どこかで会っているはずだと感じるのに、思い出せない。
肩まで伸びる黒髪は美しく、その瞳も吸い込まれそうな黒。強く芯の強そうな、不思議なその人に魅力を感じる。

『―――――』
「え?」
「ん?」
「あれ…今何か言いました?」
「いいや、何も言っていないよ。ね、ハリー?」
「はい。どうしたの?何か聞こえた?」
「いや、何でも無いの。空耳よ」
「あ、もうそろそろ消灯時間だ、戻らないと!」
「ああ、本当だね。またいつでもおいで」
「ありがとうございます!お邪魔しました」

自室に戻り、窓から夜空を眺めた。
この三日月が満ち足りた時、私の欠けている何かがわかるかもしれない。

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