獅子として

「コウキ、ちょっといいかしら?」
「はい?」

そろそろ今日の授業も終わる頃。
医務室はいつになく怪我人に追われていた。

「今日、スネイプ先生のところへ薬を取りに行く予定で…」
「ああ、私が行って来ますよ」
「ごめんなさいね、ありがとう」

学生時代、グリフィンドールだった私は決してセブルスにいい顔をされる存在では無かった。
思い返せばある日、ジェームズ達と派手に喧嘩をし、満身創痍に陥ったセブルスに手を貸した事から関係は始まった。
もちろん、最初は気に食わなかった様であしらわれ続けていたのだが、一言二言くらいは交わすようになった私達。

今セブルスは魔法薬学教授、私は医務室の助手として同じホグワーツを生活の場としている。

「どうぞ」

ノックの音に声が返る。

「失礼します」
「薬だろう、そこに置いてある」
「ありがと」

つんと鼻にくる匂いだが、何だか落ちつくのはセブルスがいるからだろうか。
どちらとも無く距離を縮めた私達は、卒業後も何度か顔を合わせていた。
どんどん闇に染まっていくセブルスに、私は己の無力を恨んだ。

「ねえ、やっぱり、やめなよ」
「お前に関係なかろう」
「自分が苦しむだけとわかっているでしょう?貴方じゃ無理よ、優しい人だもの、」
「関係無いと言っているのが聞こえなかったか」
「関係ある!」
「煩い!さっさと出ていけ、牙の無い獅子が立つ舞台などここには存在しない!」

騎士団の前衛に入る勇気も持たず、ただ逃げ惑うばかりの毎日。
牙の無い獅子とはよく言った物で、裏方に回り皆の無事を願う事しか出来なかったのだ。
それも、敵であるセブルスを想いながら。

「はあ…」
「何だ。人の部屋に来て早々に溜め息を吐くとは失礼な奴だな」
「いやちょっと昔を思い出して」
「そんな想いに耽る暇があるなら働いたらどうかね」
「あの時、セブルスが私を死食い人に誘っていたら、私は着いていったんだろうなとか」
「…お前のような弱い奴を連れていく気など今も昔も更々無い」

面倒臭そうに溜め息を吐きながら答えるセブルス。
うじうじし出すと立ち直るまで居座るタイプと理解している彼は、こうやってくだらない話に付き合ってくれる。珍しかろう。

「…セブルス」
「なんだ、用が済んだのなら、早く出ていってくれないか」
「死なないでね」
「お前は自分の心配をしていろ」
「そんなの、わかってるよ!ばかセブルス!」
「っ…」
「じゃあね、薬ありがと!」

セブルスの雷が落ちる前にそそくさ地下室から出る。
今も昔も私達は変わらずここにいるのに、振り返っても、見回しても、私達しかここにはいない。
もう誰も、無くしたくない。
せめてセブルスだけでも、私の手で守りたい。

「コウキ」
「セブルス…」
「顔色が悪い」

そう言いながら、私の額に手を当てた。
何度でも言おう。珍しかろう。

「追いかけてくれたの?」
「医務室で働いているやつの体調が悪くてどうする」
「うん…セブルス、暖かいね」
「我輩は死なん。そのような事ばかり気にしていては前も向けんだろう」

闇に手を染めながらも、私を守ってくれていた。
逃げろと忠告してくれたのもセブルスだった。
でも、私は…セブルスが傍にいるのなら、闇に潜んでもよかったんだよ。
なんて言ったら、怒られるのかな。

「セブルス、好きだよ」
「そんな事わかっている」
「セブルスも、私が好きだものね」
「黙れ」

いつかこの闇に終止符が打たれた時、
私達はこの地に立っているのだろうか。
私はセブルスを守る盾に、なれているだろうか。

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