雨足を辿って

ぽつぽつと大粒の雨が降ってきた。
流れ落ちる雫を手に取れば、すぐに大きな音を鳴らして本降りに。

「…こんな風に泣ければいいのに」

"君は強いね"と、誰かに言われた言葉が頭を過る。
強いと言われれば反抗したくなるのに、弱いと認める事はしたくない。
涙を流さない事が強さならば、涙を流すことは弱さなのだろうか?
くだらない自問自答がただの強がりだと、誰が気付いてくれるだろうか。

「コウキ!」
「あ…」

許される訳もないのに、心から求めてしまうその声に振り向く。

「先生、」
「びしょ濡れじゃないか、さあ、中に入るんだ」

中庭に立つ私の元へと駆け、その手を取る―――いや、取ろうとして一歩引く。
差し伸べて、優しく促すだけ。

「コウキは雨が好きなのかい?」
「どうして?」
「雨の日はいつも外にいるだろう?誰かが呼び止めなければ、ああやって雨に打たれている」

誰かを待っているんじゃない。
私は、貴方を待っている。
そう言ったら、どんな顔をするだろうか。

「だから、先生が来てくれるんですか?」
「そうだね、誰かが来るのを待っていては、君が風邪を引いてしまう」
「でも」

言葉を遮って、先生は私を自室に招いてくれた。
そしていつも出してくれる暖かい紅茶。砂糖を入れれば、その味にとろけていまいそうだ。

「それとも…誰かを待っているのかい?」
「そう、見えますか?」
「なら、もしかして私は余計なお世話をしてしまっているのかな?」
「…そんなことは」

悲しげな、でも優しい笑みを見せる。
そうやって他の人にも笑うんだ。優しい言葉をのせて、心を覗く。

「しっかりと拭くんだよ、暖かくして寝るんだ」
「ありがとうございます」

それ以上の距離は縮めない。
ずっとずっと、薄い膜があるかのように。

「先生」
「うん?」
「私、きっと次の雨の日も待ってる」
「コウキ…」

そうして訪れる次の雨。
中庭に立っていれば、タオルを持った先生が現れた。

「…参ったな」

そう言いながらタオル越しに私を包んだ。

「他の誰かを待っているなんて、耐えられないかもしれない」

どうかその手を離さないで。
満月の夜、貴方に食い殺されてもいい。

だから、私を見付けて。
本当の私を。

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