□ 恋の旋律 □
──…最初から君を…
「…あ、」
不意に聞こえた、聞いたことのある歌。
元はどこか機械的な歌声で流れる曲が、少し高い男の声…しかし切なく綺麗な歌声で歌われていて、俺は思わず足を止めた。
「……」
──…好きにならなきゃ良かった…な……んて…
しかしその旋律は、すぐに途切れた。
不自然に終わってしまった歌に、聞こえてきた元を見上げる。
「…屋上、か?」
確か、屋上は立ち入り禁止で鍵は教師と生徒会長と風紀委員長しか…
そんな疑問も浮かんだけれど、そんなことより綺麗な歌声をもっと聞きたくて屋上へ続く階段を駆け登る。
一緒にいた友人がどうしたのかと声をあげたのなんて、気付かなかった。
ただ、もっと歌ってほしくて。
バン!
「え、」
「っは…は、はぁ…は…え、嘘…」
先客がいるのならば鍵が掛かっていないと読んだ俺は、勢いよく屋上に出る扉を開ける。
日頃運動なんか授業以外ではしない俺は、ただ一階分上がっただけで呼吸が乱れていて、何とか息を吸いながら顔を上げた。
そして、目を見開く。
「…会、長…?」
俺と同じように目を見開いて固まっている彼は、この学校の顔とも言える、生徒会長だった。
そして更に、滲み出る汗が驚きで引っ込んでしまった俺とは逆に、会長の頬は涙で濡れていた。
「お前…何、何で」
「…会長、」
「は…」
「もっと、歌って」
息が苦しかったし、会長が何で泣いてるのかも気になったけど、俺は笑顔を繕うことも出来ずそう告げた。
彼は、見開いた濡れる瞳を更に大きくさせてから、それを瞼の下へ隠す。
「…Like a Fire Flower…」
再び奏で始める旋律は、空へと吸い込まれていく。
俺はその切ない歌と同じく、涙で頬を濡らす生徒会長の横顔も、凄く綺麗だと思った──…
「…俺、あんたの歌声、好きだな」
歌の余韻に浸りながら、俺は思わずそう呟いていた。
*……‥‥
ちょっと書きたいなーと思った話を思うがままにバーッと書いてみました…。
歌は私の好きなボカロの曲です。
色々設定思い付いたけど、今は他のお話もあるしいいかなーと(笑)
歌から始まる恋ってのも、爽やかな感じで好きです。
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