暖かな手


「お前さー、何でこんな失敗する訳?」

「…すみません…」

背後で火のついてない煙草を加えた先輩が呆れたように言う。
俺はただ情けなくて肩を落とした。

もう夜も深く俺達以外誰もいないオフィス、通りの車の音を遠く、カタカタと煩く手元から音が響いている。


仕事も一段落し、皆が帰っていくのを見て俺も帰ろうかと立ち上がった所に、仕事用の携帯へ電話があった。
かなり憤怒した先方が発したのは、クレーム。
俺が担当していた商品のデザインが、コンセプトと全く違うと電話越しに怒鳴られた。次いでまた間も置かずに電話、と思いきや、また違う会社から同じ内容の電話。
確認すれば、片方の会社への物をもう片方の会社へと送ってしまっていて、もう片方は本当に間違っていて。

…急遽、残業となってしまった。
この失態に、数週間前まで俺の指導をしてくれた先輩も部長に残らされてしまい、申し訳なさが押し寄せてくる。

「…ダメです、どのデザイナーとも連絡取れません」

「あー…マジかよ」

間違えて送ってしまった会社には正式なデザインを送って謝罪して解決したが、もう一方はそうもいかない。
すぐに、正しいコンセプトにあったデザインを用意して渡さなければいけない。

その為にまず、担当していたデザイナーへ変更を依頼しなくてはならないのだが…何故か連絡が取れない。今は他に片っ端から連絡をしているが、すぐに手掛けてくれる人なんていない訳で。また、大抵はすぐに連絡がつかない。
そして、納期を遅らせるにもいかない。
八方塞がりだ。

──…どうしよう、どうしよう。

ふと、手が止まってしまう。

「…俺、クビになっちゃうんですかね…」

ただ焦りだけが湧いてきて涙が出てくる。

失敗をするわ、デザイナーは捕まらないわ、泣き出すわ。
自分で自分が情けない。
でも、暗く沈む思考は止められなかった。

泣いているなんて気付かれたくなくて俯いていれば、先輩から大きな溜め息が吐き出されて、思わず肩を跳ねさせる俺。

──…ふざけるな、って怒られる?

「俺が守ってやる」

身構えた俺に与えられたのは、頭に乗せられる暖かな温もり。
え、と振り返ると、涙の滲む視界の奥で先輩は可笑しそうに、しかし優しく笑っていた。

ぎゅ、と心臓を掴まれた感覚、また、息が詰まる。

「先輩…」

「…ま、お前はちゃんと何とかするだろう?」

今度は自信ありげに口角を持ち上げる先輩に目を瞬くが、すぐ笑って頷いた。

「はい!絶対何とかします!」

やる気、出た。

俺は視界を邪魔する涙を乱暴に拭ってから再び机に向かう。


ぽん、と頭を一度撫でる暖かな手から、俺の全身へじんわりと熱が広がった。




*……‥‥
BLか微妙なところですが、こんな感じは好きです。
私的にやっぱりワンコ後輩×男前先輩…しかし逆も良い。
この後は何とか仕事も落ち着いて、二人で無自覚イチャイチャしてたら…と妄想してます。
あ、デザイナーとか何とか適当に思い付きで書いたので、そこら辺は流して下さい(笑)



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