□ 大失態 □
「なぁなぁ!お前名前何だ!?なぁ!教えろよ!」
…何だこの無駄に喧しいチンパンジーは。いや、チンパンジーに失礼か。
転校生に最初に抱いた印象は、こんなもんだった。
「…日向」
「日向っていうのか!下の名前は!?」
「…それが下の名前だ」
「そっか!よろしくな!日向!」
…名字が日向で良かった、なんて初めて思った。
そしてあの日から一週間。
「委員長!転校生がまた…!」
「委員長!親衛隊が転校生に…!」
「チッ…またか」
転校してきたあの宇宙人は、毎日のように問題を起こしている。
親衛隊が制裁しだしただの、生徒会が全く機能しないだの、授業に出ないだの、会う奴(美形限定)全て友達にするだの、嫌がる平凡を引きずり回すだの…エトセトラ。
その為、風紀委員長である俺に、その皺寄せが全て押し寄せる訳で。
──…つまり、いい加減限界だったのだ。
「お、日向!久しぶりだな!ずっと会いたかったんだぞ!日向も一緒に食おうぜ!」
「彼は別に席が決まっているので、無理なんですよ」
「こんな奴よりー、僕と一緒に食べよーよぉ」
「…風紀…だめ…」
だから、こんなおかしな事をしでかしてしまった訳で、俺は悪くない。
…俺自身ビックリというか、気持ち悪い事をしてしまったと後悔しまくりだ。
「風紀より、俺様の方が全然良いだろう。才能も、夜のテクも…な。…今夜、披露してやるか?ベッドの上で…」
「なっ…何言ってんだ…!」
色気たっぷりに転校生に囁く生徒会長と、その囁きに真っ赤になって慌てる転校生。…嫌がってるようには見えないが。
──…俺達は、こんなにも忙しいのに…こいつらは…!
ブチ、
「…バ会長に俺が負けてるだと…?ふざけんな、てめぇみてぇな役たたずに俺が負けてる訳ねぇだろクズ」
「っんだと…!てめ、風紀…!」
堪忍袋の緒が切れた。
正にそんな音が頭で響いて、低い声で言葉を紡ぐ。
…今までの生徒会だったならこんな言葉、会長相手に吐かないのに。それだけ、こいつらは、地に堕ちたんだ。
「何なら全校生徒の前で証明してやる」
イライラ。ただただ胸糞悪くて、自分ですら何をしでかそうとしているのか分からなくて。
反論しようと立ち上がりかけた会長の胸ぐらを力任せに引っ掴んだ。
…そして。
『きゃああああああ!』
『委員長が、会長に…!』
「んッ…ぅ…!」
夕食だと生徒が大多数集まる食堂のど真ん中で、俺はやらかしてしまったのだ。
──…生徒会長に、ディープキスなんて。
生徒達の悲鳴も、生徒会の奴らの唖然とした顔も、転校生の真っ赤な顔も、──…目の前の会長の顔も。…俺には何にも感じられなくて。
漸くと長く深い口付けを終えて、会長を突き飛ばして。
「ッは…下手くそ」
ただその一言、へたり込んだ会長に突き落とした。
唖然呆然な周りの奴等には目もくれず、俺はさっさと騒がしい食堂を後にする。
──…ああもう、本当にやらかしちまった。
「…ホモじゃねぇぞ俺は」
一人愚痴りながら濡れた口許を拭った。
「だ、大丈夫か?!」
「会長!大丈夫ですか?!」
「…俺の…ファーストキス…」
『えええええええ?!』
俺の去った直後、食堂でまた騒ぎが起こった事は、翌日副委員長に聞いた。
…本当に大変な失態を犯した、俺も、あいつも。
また転校生とは関係ない騒ぎが学園を襲うだろう、と俺は激しく痛む頭を抱えたのだった。
*……‥‥
王道編入生のせいで崩れ始めた学園…に、ぶちギレたノンケ男前風紀委員長がやらかした話。
ファーストキス奪われちゃった実はロマンチストな俺様生徒会長が、この後風紀に迫ったり迫らなかったり(笑)
攻受はどっちでも美味しいと思います。
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