越えたい背中 (2/3)
綺麗な線を描いてゴールの網を通過する筈だったそれは、俺の手から離れた直後に地面へと叩き付けられる。
ほぼ同時に着地してから目の前の顔を見上げると、夕舞さんはニッと強気に微笑んでいた。
「っは…まだまだだな」
俺はその言葉に深く息を吐きながら顔を伏せる。濡れる頬を拭ってから…
「しんい──…」
「夕舞さん、やっぱ凄いです!」
「……あ?」
再び勢いよく顔を上げると、俺は笑ってしまう口元を隠すこともなく興奮した口調で告げた。
「一歩遅れてからあの速さでブロックするなんて、ジャンプも高いですし…!俺ももっと足の筋力を付けなくちゃ…」
そこまで早口に言ったところで夕舞さんが突然可笑しそうに声をあげて、俺は目を瞬いた。何かおかしな事を言っただろうかと首を傾げるも、夕舞さんは更に笑うだけで。
彼を見つめるだけで固まっていると、今度はわしゃわしゃと髪を撫で回された。
「わっ…ゆ、夕舞さん…っ?」
「ふは…ッ…あー心配して損した。ほんと、可愛いな、お前は」
俺に目線を合わせるように僅か身を屈ませた夕舞さんが、目を細めるように柔く微笑む。
間近で見せられたその表情に俺の頬が熱くなるのが分かった。俺はそれを無視して、軽く唇を尖らせながらいつものように反論を呟く。
「俺は可愛くないです、可愛いのは夕舞さんですってば」
「はァ?俺こそ可愛くねェよ。慎一のが可愛い」
「いいえ!夕舞さんのが、世界一可愛いです!」
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