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後ろ髪、惹かれる御霊

最近、気配の消し方が上手くなったあたしは珍しく非番らしいカカシくんの肩口ににゅっと顔を出して言った。

「ねえ、前から思ってたんだけどその本そんなにおもしろいの?」
「ちょ、レイ子気配を消すのやめてよ。」

ちょっぴり慌てた声色のカカシくんに気分が良くなって思わず悪戯めいた顔になってしまう。 ちなみにカカシくんが読んでるのは何だかアヤシイ表紙の小説。たしか作者はあの自来也さまだ。

「やっぱりエッチな本読んでるんでしょ〜」

あたしは得意気に言った。それを見てカカシくんはふっと笑みを零して―――

「気になる?」

妙に色気のある表情で言われたものだから思わずたじろぐ。ややあって、あたしはつんとして言った。

「まさか」

カカシくんは頬杖をついてそんなあたしのことを愉快そうに眺めている。「ふーん」とちょっぴり皮肉めいた笑みを向けられて、何か言い返してやろうと思ったけれど何も言えずにただ睨んだだけだった。

悔しいけれどカカシくんに敵うところなんてひとつもない。あたしよりも年下なのに優秀でおまけにイケメンときた。いつもあたしをからかって、にやりと口の端を吊り上げて満足気に笑うカカシくんに振り回されてばかりだ。そんな物思いに耽っていたら―――

「レイ子」

不意にカカシくんに名前を呼ばれてはっとする。さっきとは打って変わって真面目な顔をしたカカシくんに一体何事かと思って呆けていたら「透けてるよ。」と言われて慌てて自分の両手を見る。

「あ……」
「………あんまり気配消しすぎない方がいいんじゃない?」

あたしはカカシくんの言葉にどきりとした。あたしの体が透けているのはいつもの事なのだけれど、最近は考え事をしたりしていると…なんていうか消えかけてしまう。その度にカカシくんはあたしの名前を呼んでこの世に戻してくれる。

これはカカシくんの仮説だけれど、幽霊のあたしはチャクラの精神エネルギーみたいなもので、すごく不安定な存在ということ。この間カカシくんに憑りついちゃったのは、あたしの精神がバランスを保つために眠っていて意識のないカカシくんの肉体に引き寄せられたのかもってことだけど……もし死体に憑りついちゃったりしたらゾンビだ!そんなのホラーすぎるしまっぴらごめんだ。

「ほらレイ子戻ってきて。」

「また消えかけてるよ。」カカシくんが今度は呆れたように半眼になって言った。

本当はあたしの存在が消えてしまうのは自然なことかもしれない。だけど、あたしに呆れてため息をつくカカシくんにもう会えなくなると思うと少しだけ胸がぎゅっとした。