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憑裏一体!?

「えっ……?」

一瞬、何が起こったのかさっぱり分からなかった。思わず目をぱちくりさせて慎重に記憶を辿る。寝ているカカシくんに触れようとして……そしたらものすごい力でカカシくんの方に引き寄せられて。何がなんだか分からないうちに今に至るのだけど………あたしは今、天井と向き合っている。というか、布団を被ってベッドに仰向けになっている。これは、おかしい。
何がおかしいってこの体になって睡眠はいらなくなったから。なにより布団を被れるはずがない。だってあたしの体はすり抜けちゃうから!
あたしは自分の体の異変にちょっぴり慄いて、恐る恐る両手で自分のほっぺを押えた。

「透けてない……」

両腕を天井に向けて伸ばしてグーパーしてみても……やっぱり透けていない。一体どういうこと!?もしかしてあたし生き返った!?
混乱する頭で考えてみるけど、そんなことはありえない。

「ま、まさか……」

そんなことありえないけど、一番ありえそうな仮説に思い至って青ざめる。居ても立ってもいられなくなったあたしはベッドから飛び起きて洗面台へ猛ダッシュした。

「う、嘘でしょーーーーーーーーー!?」

銀色の髪に色違いの瞳、それから口元の黒子と目の傷跡。鏡に写ったあたしはやっぱりカカシくんで。慌てて両手を胸にあててみたけど……ない。元から胸なんてなかったけど!ていうか、そんなこと考えてる場合じゃない。もしかしてあたしカカシくんに憑りついちゃった!?

どうやったら元に戻れるのかさっぱり分からない。途方に暮れて洗面台の前を行ったり来たりして呪文のようにどうしよう…と唱えていたら―――

「レイ子、うるさい…」
「!」

カカシくんの声が聞こえてきた。びっくりして鏡の中を覗き込むと、驚いた顔のカカシくんが写っている。つまり、今カカシくんの体を支配しているのはあたしで本物のカカシくんは寝起きで意識がはっきりしていないみたい。

「カ、カカシくん……どうしよう!」
「さっきからなんなの?」
「あたしカカシくんに憑りついちゃった…!」
「は?」

カカシくんのちょっぴり不機嫌そうな声がして思わず背筋が伸びる。「意味分かんないんだけど…」そんなこと言われたってあたしだって意味わかんないだってば。

「と、とにかく鏡見て!」
「…べつにフツーだけど?」
「違うの!カカシくん動かないでよ?」

カカシくんはまだ怪訝そうな声色だったけど、渋々あたしのお願いを聞いてくれて黙ってじっとしていた。あたしは、っていうかカカシくんの体の中に入っちゃったあたしはカカシくんの両のほっぺを思いっきり引っ張った。なんだか猫がびよーんってされたときみたいでちょっとおもしろい…

「レイ子、何したわけ?」

カカシくんが、はあ…と呆れたようにため息をついて言った。どうやら状況を理解したみたいだ。その証拠に鏡に写るカカシくんの眉間の皺がどんどん深くなる。いや、あたし何にもしてないんだってば……

「なんにもしてないってば……あ、」

無実を主張しようとして、はたと思った。あたし寝ているカカシくんに触ろうとした。だけど、それとカカシくんに憑りついちゃったことに関係があるだろうか。それに寝てる間に触ろうとしました、なんて自分から言ったら変態だと思われかねない。あたしは思わず、カカシくんから視線を反らした。鏡の中のカカシくんは相変わらず、しかめっ面だ。

「ふーん、オレに言えないようなことしてたわけ?」
「ち、違うよ!なんていうか…その…」

しどろもどろになっているあたしにカカシくんは片眉を吊り上げている。決してスケベ心じゃない。ただ、苦しそうな表情で眠るカカシくんがいたたまれなかっただけだ。

「ま、いいけど。」
「え…」

いつまでぐずぐずしているあたしにカカシくんはふぅと息をついてちょっぴり呆れたような顔で「アンタって結構ドジだしね。」と言った。あたしは返す言葉がなくて黙っていた。あたしがカカシくんぐらい優秀だったら今頃、幽霊になってカカシくんのアパートをうろうろなんてしていなかっただろう。(ていうか、元々はあたしのアパートだけど。)

「レイ子、いつまでオレの中にいるつもり?」
「いつまでって言われても…」

そりゃあ、あたしだっていつまでもカカシくんの中にいるつもりはないけど…どうやったら離れられるのかさっぱり分からない。困り果てて鏡の中のカカシくんの顔見つめた。そうしたらカカシくんは口の端を吊り上げてにやりとした。嫌な予感がする。カカシくんの体を支配しているのはあたしのはずなのに金縛りにあったような気分だ。

「オレ、シャワー浴びるけどレイ子も一緒に入る?」

あたしは一瞬、思考が停止して唖然としてしまう。その間にもカカシくんはお風呂場にドアに手をかけようとしていて…

「ちょ、ちょっと待ってカカシくん!」

慌ててカカシくんから逃げようとしたら――…

「え」
「よかったねレイ子、元に戻れて。」

カカシくんはあたしの目の前で意地悪そうに笑っている。あたしはしばらく目をぱちくりさせてカカシくんを見つめた。それから我に返って自分の両手を電気に当ててみる。

「透けてる…!」

良かったあたし元に戻れたんだ!
もう一度カカシくんの顔みたら、やっぱり意地悪な顔をしている。

「残念。オレはレイ子と一緒にシャワーしてもよかったのに。」