エロ本攻防戦
「カカシ先生って……こういうの好き?」
あたしは何気なく読んでいた週刊くのいちの巻頭カラーページを指差して言った。
巻頭カラーを飾っているのは最近話題のあたしと同い年のくのいちモデル。第一、くのいちなのにモデルってなんだよ。こんな細い腕で戦える訳ないじゃん。ていうか胸でかすぎ。などと、ちょっぴり恨めしく思いながら雑誌の中で微笑むその子を見つめた。
ほんのり上気させた頬にあどけない表情。砂浜に両肘をついて谷間を強調したポーズ。パステルカラーのビキニは少し窮屈そうだ。
女のあたしから見ても色っぽい写真だと思う。
「ヒメ、急にどうしたの…」
カカシ先生は読んでいた本から顔を上げて、目をぱちくりさせながらあたしを見た。
「だから、先生も見る…?エッチな本とか…」
あたしは質問しておきながら後悔した。だってカカシ先生ときたら暇さえあればイチャイチャシリーズを読んでいるから。そんな人がエロ本を読まない訳がない。男性として健全なことなんだろうけど、やっぱり口にするとモヤっとしてしまう。
「……ヒメちゃん、もしかしてやきもちですか?」
にやり。人の悪い笑みを浮かべてカカシ先生は言った。
「……違うし。ひとりでエッチなことするときどうするのかなと思っただけだし…」
ずばり、図星だった。
けれど、雑誌の女の子にやきもちを妬いたなんて認めるのはなんだか癪で……カカシ先生の性欲処理事情なんて知りたくもないのに心にも思っていない質問が口をつく。カカシ先生は相変わらずニヤニヤとした含み笑いを浮かべて、なんだか愉しげだ。
それが子供扱いされているようで余計に悔しくって、あたしはほっぺを膨らましてそっぽを向いた。カカシ先生はちっとも困っていない癖に困ったなあ、なんて言っている。
「ヒメ怒った?」
「………」
ふくれっ面をしたあたしのほっぺをつんつんつつきながら、クスクス笑っている。
こうなったら無視を決め込こんでやる。そう思っていたのにやっぱりカカシ先生は一枚上手だった。
あたしは真剣にカカシ先生を無視しているのに、先生はなんだか楽しげにあたしのほっぺをつつき続けている。あたしはさっきまで不貞腐れていたくせにあたしのほっぺを一生懸命つつくカカシ先生を見ていたら、だんだん可笑しくなってきた。
「もう!先生やめてよー!」
思わず笑ってしまって、じゃれるようにカカシ先生の腕を振り解く。
「ヒメ、まだ怒ってる?」
思いの外、真剣で低いトーンで問われてどきりとする。さっきまではムードなんて全くなかったのに。反射的に見上げた先生の顔は微笑を湛えている。穏やかな表情なのに、一度その瞳に囚われると逸らすことができなくなるような鋭さがあった。
そのまま大人しくカカシ先生の顔を見つめているとなんだかそわそわしてしまう。そんなことを考えていたからなのかはわからないけれど、カカシ先生の手がスッとあたしの前髪を梳かしてきて「ヒメ、怒ってるの?」と再び問われた。
「ううん…意地張ってごめんね。先生から見たらあたしってまだまだ子供でしょ?…だから、もっと、その…いろいろしたいのかなって…」
カカシ先生はあたしの言う色々というのは色事に関する事だと分かったようで困った顔をして頭を掻いた。
「ヒメは今のままでいてほしいかな……だってヒメ、どんどんエッチなこと覚えてくるんだもん。」
困っちゃうよ、なんて言われてあたしは恥ずかしいような、嬉しいような気になった。
キスもエッチも何もかもカカシ先生としかしたことないけれど…
まさか、先生がそんな風に思っていたなんて!だけど、年上の先生が困っているなんてなんだか可愛いかも!