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ユアーザリーズン






「カカシ、なんかあった?」
「どうして?」
「だって、なんか今日は情熱的だったから?」

情事の後、ふたりで布団にくるまってカカシに尋ねたらカカシは可笑しそうクスクス笑った。

「お前、昔はオレとのセックスはロマンがないって嘆いてたくせに。」
「あの頃はもっとなんかこうさ、セックスって特別なものだと思ってたわけですよ。」

初体験の相手はカカシだった。多分、カカシの初めてもわたし。わたしたちは幼馴染というやつでお互いを子供の頃から知っている。カカシがアカデミーを飛び級で卒業してからはめっきり会わなくなった。それから何年か経ってミナト先生が火影になった時にわたしたちは暗部に入った。その頃のカカシはいつも陰が射しているような雰囲気を纏っていた。そんな彼を案じた四代目様は気心の知れたわたしを暗部に配属させたらしい。

気心が知れているとは言ってもしばらく顔を会わせていないカカシになんと声をかけていいのかわからなかったし、私自身も大戦で両親や友人を無くして疲弊していた。でも、それは無用の心配で昔のよしみだからか、同じような境遇からか、すぐに馴染んだ。

お互い生きる事に疲れていた。

そんなときにクシナさんが身籠って……そしてあの九尾事件が起きた。

わたしたちは生きるって、生を育むとはどういう事なのか分からなくなった。だから、セックスすれば何かが変わるかも知れないと、妙な幻想を抱いていたのかもしれない。

わたしたちは付き合っているわけではなかった。昔から知っている仲であるし、暗部での任務にも命を預けてもいいと思えるほどにはカカシのことを信頼していた。つまり「初体験に適当な相手」だったわけだ。

終わった後は、今日と同じようにふたりで布団にくるまって「なーんか、セックスってもっとロマンのあるものだと思ってた。」「なにそれ、オレとのセックスはロマンがなかったみたいな言い方だね。」みたいなやりとりをしたのだ。カカシが言っているのは多分この時こと。

「だってさ、あたしたち恋人同士でもないんだし。」
「まあねー」

十代の終わりに初めてを経験してから二十代の半ばになった今でもカカシとの関係は続いていた。もう良い歳だし、カカシだって最近は教え子を持っているのだからいい加減、ずるずるした関係をどうにかしなければと思うけれど、わたしたちはお互いに「大切な人」という立場になるのを怖れていたんだと思う。

布団の中で甘えるようにカカシにすり寄れば「どうしたの今日は甘えただね。」と目を細めて愛しいものを見るような視線を向けられて、ほんの少しだけ心臓がドキドキした。

それから、どちらともなく唇を重ねた。だだ触れるだけのキス。乾いた唇のくすぐったさが心地良い。

「ねぇ名前。」

唇を離すとカカシが真剣な目をして言った。

「オレたち大切な人はみんな失ってきたけどさ、」
「……うん」
「お前だけは、ずっとそばにいてくれたんだよね。」

わたしは言葉に詰まった。それはわたしだって同じことだった。救えなかった友人の最後の瞬間思い出して、気が狂いそうになる夜もあった。わたしたちはぬるま湯の中で傷を舐め合って、一時の安寧に身を委ねたかったのだ。

「名前、お前はオレを置いて行かないでよ。」

それはわたしの台詞だ。わたしだってカカシに置いて行かれたくないもの。それならわたしたちずーっと一緒にいればいいんじゃないの。うん、これってすごく名案。

「じゃあさ、家族になろうよ。」

わたしの言葉にカカシはニッコリして「そうだね。」と同意した。

わたしたちは好きとか嫌いとか、恋とか愛とかそういうのはよく分からない。ただ生きる理由が欲しかった。人はこの関係を依存だと言うかも知れないけれど、わたしにはカカシが必要でカカシにもわたしが必要だった。ただそれだけのことだ。