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ラストJKセレブレーション






「ほんとによかったの?あいつらと一緒に行かなくて。」

信号待ちでカカシ先生はハンドルを握ったまま、あたしを見た。眉毛を下げて少し困ったような顔をしている。

「いいの。先生と一緒にいたい。」

あたしは制服のスカートをぎゅっと握りしめて言った。目の前の横断歩道を花束や色紙、卒業証書の筒を持ったクラスメイト達が通りすぎて行く。あたしは反射的に俯いた。

「くくく、お前…コソコソするのがすっかり染みついちゃってるねえ。」

ついさっき、卒業式を終えるまで先生と生徒という立場で道ならぬ恋をしてきたあたしは、他人の視線にすごく敏感になってしまった。だからなにも知らないクラスメイト達にカカシ先生の車に乗っているところを見られてしまったのではないかとヒヤリとして心臓が止まりそうになった。
そんなあたしをカカシ先生は愉しげに目を細めて見つめてくる。その瞳の奥に確かに揺らめく炎を見つけてしまって、あたしは言葉に詰まった。

「だって……」

今までは、カカシ先生の車に乗っても助手席に座ることはあまりなかったし、先生だってあたしには目もくれず無表情に運転していたのに。急にそんな風に見つめられたら、どうしていいかわからない。

「……制服のままだし。」
「だれも気にしないよ、そんなこと。」

カカシ先生の視線に射ぬかれて、先生の顔から目が離せなくなったまま固まってしまう。「名前…」低く掠れた声で名前を呼ばれて、心臓がドキドキと騒ぎだす。ゆっくり先生の顔が近づいてくる。鼻先がぶつかりそうほど近い距離に息が止まりそうになる。

「…っ、せんせ……信号…青だよ。」

キスされる、そう思った瞬間に視界の端で信号が変わるのが見えた。咄嗟に出たあたしの言葉にカカシ先生はにこっと微笑んだ。それから、少しだけ意地悪に口の端をつり上げて「残念。」と離れていった。

あたしは、まだ心臓がドキドキしていてカカシ先生の家に着くまで黙って俯いていた。





カカシ先生の部屋には何度も来たことがあるのに妙にそわそわして落ち着かなかった。もちろん勉強を教えてもらうだけのプラトニックな関係だったのだけれど。

「なんか飲む?」
「じゃあ、コーヒーがいいです。」

カカシ先生はキッチンへ、あたしはいつもと同じようにソファに座った。
「はい、どーぞ。」
「ありがとうございます。」

しばらくして先生はマグカップを二つ手にして戻ってきた。一つは先生のブラックコーヒー、もう一つはあたしの殆ど牛乳のカフェオレ。小さな頃は高校を卒業すればブラックコーヒーも飲めるようになると思っていたし、十八歳はもっと大人だと思っていた。けれど実際はまだまだ子供だ。

だって隣に座った先生の膝とあたしの膝がくっついているだけで、心臓が飛び出しそうなぐらいドキドキしているんだもん。

「カカシ先生、」
「もう先生じゃないよ。」
「えっ、」

カカシ先生、そう呼ぼうとしたら途中で遮られてしまった。

「もう卒業したんだから、名前で呼んで。」
「………カカシ、さん」

呼び捨てにするのはどうしても気恥ずかしくてできなかった。さん付けするのが精一杯のあたしは赤くなった顔を隠すために俯いた。

「ま、今のところは合格…かな。」

カカシ先生はあたしの頬っぺにそっと手を添えて、上を向かせた。先生と目があって、心拍数がはね上がる。あたしは先生の目を見ていられなくなって咄嗟に目を瞑った。

瞬間――先生の唇があたしの唇に重ねられていた。びっくりして思わず目を見開く。ちゅ、と音がして先生の唇が離れていく。呆然として先生の顔見つめていたら先生は「お前ね、目ぐらい瞑りなさいよ。」と呆れたように笑った。

「だ、だって…はじめてだったんだもん!」
「当たり前でしょうよ。オレが目を光らせてたんだから。」

カカシ先生はあたしの言葉に満足気に口の端を吊り上げて笑った。それから今度は、あたしの手首を掴んでゆっくりソファーに押し倒した。ドキドキする暇もないまま、また唇を重ねられる。

触れるだけのキスを繰り返されているうちに心の中が幸せな気持ちで満たされていく。だってもう、あたしたちは人目を憚ったりしなくてもいいし、理由がなくてもカカシ先生の部屋に来てもいいのだ。そう思ったら無意識にカカシ先生の首に手を回していた。

「……名前」

じれったさを湛えた声で名前を呼ばれた。先生の顔を見上げたら先生は眉毛を下げて困ったような顔をしている。

「そんな積極的に抱きつかれたら、離してやれなくなる。」
「え……あっ」

無意識のうちに大胆な行動を取った自分に絶句する。慌てて先生の首に回した手を離そうとしたら、それよりも先に唇を奪われた。

「んっ…!?」

唇を割って先生の熱い舌が入り込んできた。さっきとは違う生々しいキスにびくりと体が震える。

「……っ、んん…んっ……」

息をするのも忘れてしまうような、というか今さっきファーストキスをしたばかりのあたしには本当にいつ息つぎすればいいのかわからなかった。熱くて柔らかい先生の舌に口内をまさぐられているうちにだんだん苦しくなってきた。

キスは激しさを増して、あたしの口のまわりは上手く飲み込めなかった唾液でべたべたになっている。苦しくて生理的な涙が目尻を濡らす。

「ん……せ、んせっ……くる…しっ…」

堪らず先生の厚い胸板を弱々しく押すと、名残惜しげに唇を離してくれた。それから、カカシ先生はあたしを抱き上げて、ぎゅうぎゅう抱き締めながら言った。

「はあ〜〜〜〜、お前可愛いすぎでしょうよ。……可愛いすぎて手出せない。」

さっきまであたしに激しいキスをしていた人のセリフとは思えなくて、あたしは思わず吹き出してしまった。

「あんなキスしたくせに?」
「そ、あんなキスしたのに。」

ため息に混じりに言ったカカシ先生がなんだか可笑しくて、くすくす笑っていたら急に耳元で甘く囁かれて――「お前のはじめては全部オレがもらってやるから。」あたしは途端に真っ赤になって閉口した。