「はあ〜、つっかれた〜!」
帰宅して速攻でベッドに沈み込む。うつ伏せで大の字になっているから布団にメイクが付いてしまわないか少々心配だが、湯気やら汗やらでよれよれのメイクはもうほとんど取れかけていた。それぐらい今日のバイトは忙しかった。
大学生になって始めたアルバイトはこぢんまりとした居酒屋だった。従業員も店長とあたしの他には同じくバイトの先輩が一人いるだけだ。平日は二人でお店を回しているのが、週末だというのに店長は体調不良で休みだったのだ。
怒濤の華金営業をカカシ先輩はと二人で何とか乗り気ってヘトヘトだ。というか、あたしはカカシ先輩に迷惑ばかりかけていたのだけれど。いつものことなのだけれどカカシ先輩は本当に仕事が良くできる。そうして何かにつけてとろくさいあたしのフォローをしてくれるのだ。おまけにイケメンときたら非の打ち所がない。それでも、あたしはカカシ先輩のことを好きになったりはしない。
だってカカシ先輩には美人の彼女さんがいるから。
カカシ先輩の彼女さんに会ったことはないのだけれど、前にインスタグラムを覗いたことがあるのだ。
バイトに入りたての頃、店長から『カカシくんイケメンでしょ?でもダメだよ〜彼女いるから!』と茶目っ気たっぷりに言われたのである。その時は、こんなイケメンなんだから彼女の一人や二人いるだろうと内心思いつつも、やはりイケメンの彼女とは一体どんな女なのかという好奇心が湧いて、カカシ先輩のインスタグラムをこっそり調べてみた。けれど、先輩のフィードには彼女と写っている浮かれポンチな写真どころか投稿すらなかった。それから斯斯然然でカカシ先輩の彼女のアカウントを発見者して覗いてみた次第である。
カカシ先輩の彼女は美人だったけど、はっきり言って苦手なタイプだと思った。カカシ先輩とのツーショットは見つからなかったけれど、投稿されている写真のほとんどは自撮り写真やピン写真だった。しかも所謂、映え写真ってやつばっかり。
まあ、話は逸れてしまったけれど今日は本当にカカシ先輩にお世話になりまくった。おまけに明日のシフトも先輩と一緒だ。ここで愛想のない後輩だと見捨てられても困るのでLINEぐらいは送っておくかと思って『お疲れ様でした!今日はありがとうございます!』と、まあありきたりなメッセージを送信する。
カカシ先輩からはすぐに返信が返ってきて、なんとなくホッとした。
『おつかれ、今日はほんと忙しかったね』
『先輩のおかげでなんとか乗り切れました!笑』
『ていうか店長休みとかありえないよね』
『確かに!笑 明日もよろしくです!』
『こちらこそ』
テンポの良い会話が続いて、ちょっぴり浮かれた気持ちになる。別に好きではなくてもイケメンとLINEするのは良い気分だ。ついつい、もう少しカカシ先輩とのやり取りを続けたくなるけれどここは簡潔に終わらせるのがベターだ。
「あ!やば!」
会話終了の合図にスタンプを送ろうとしたらまさかの誤爆。通話ボタンを押してしまった。慌てて終了ボタンを連打して一人ヒヤヒヤする。なんとかカカシ先輩に繋がる前に電話を切ることに成功して安堵した。
『ごめんなさい!間違って通話ボタン押しちゃいました!』
『え、だれに?』
『え、先輩に!』
『着信ないよ』
念の為、間違い電話を詫びるメッセージを送信すると、やはりすぐに返信が返ってきた。どうやら着信履歴がつかずに済んだようだ。
『ま、オレは全然ウェルカムだけどね』
カカシ先輩からの予想外の返信に思わずドキッとしてしまう。先輩には彼女もいるんだし他意はないはずなのに、心臓がばくばく音を立てて隙あらば都合の良いように解釈してしまう自分を戒めてぎゅっとスマホを握る手に力が入る。
『明日もがんばりましょう!おやすみなさい!』
返信に迷ったあげく、先輩のメッセージには触れずにこのやり取りを終わらせることにした。するとカカシ先輩から『冗談ごめん。おやすみ』と返ってきた。
それであたしはなんだやっぱり冗談か、となんとくガッカリしてしまった。