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コンコンと扉をノックして、火影室の中に入るとはたけさんとシカマルくんがいた。
火影なのだから火影室に、はたけさんがいるのは当たり前なんだけれど。執務机で書類と睨めっこしているはたけさんを見るのはなんだか新鮮で、何度見ても思わず笑ってしまう。

「ぷっ…ふふっ、失礼しま〜す。」

シカマルくんには「名前さん…なに笑ってんすか?」とちょっぴり怪訝な顔をされてしまったけれど。

「なんでもない!あ、ねえ。シカマルくんさっきの講義でお団子もらったんだけど、一本どう?」
「あー・・・、ありがとうございます、って言いたいとこなんすけど、あの人の視線がめんどくさいんで遠慮しときます。」

そう言ってシカマルくんが半ば呆れた様子で視線を向けた先を目で追うと、はたけさんがつまらなそうに頬杖をついて、あたしたちのやり取りを見ていた。
あたしと目が合ったはたけさんは、まったく呆れた、みたいな身振りをしてみせて、溜め息をひとつついた。いやいや、溜め息つきたいのはあたしのほうでしょ!

「……もー、はたけさん、こんなことでヤキモチ妬かないでよ。」
「ヤキモチ?ひどいねえ名前は。多忙極める火影様を気遣ってもくれないなんて。」
「多忙極めるって……どうせ面倒なことはシカマルくんに押し付けてイチャパラ読んでるくせに。それに、はたけさん、甘いの食べないじゃん。」

はたけさんはやれやれみたいな顔をして頭を振っているし、シカマルくんは半眼で「夫婦喧嘩は他所でしてくださいよ…」なんて言っている。
もちろん、火影の仕事が閑職だなんて思っていないけれど。

「は〜あ、あたし油売りに来たわけじゃないのに……はい、はたけさん。これ今日の報告です。」
「ん、ごくろうさま。」

報告書を受け取りながら、にっこり頬笑むはたけさんがとんでもなく甘い目であたしを見つめるから思わずきゅんとしてしまった。つい、はたけさんから目を反らせなくなる。どきどきと鼓動が早くなるのを感じる。お互いに報告書の端っこを持ったまま見つめ合っていると。

「お二方〜、ここ一応、火影室なんすけど。」とシカマルくんの声で我に返って、なんてことをしているんだ、と顔に熱が集まってきた。

「ごめんごめん、つい。」

はたけさんはちっとも悪いと思ってないくせに、眉毛を下げて困ったように頭を掻いた。

報告も済んだし、あまり長居してもふたりの邪魔になるのであたしもそろそろお暇しようと踵を返そうとしたら。

「あ、名前。言い忘れてたけど、はたけさん、じゃないでしょ?」
「……あ、すみません。火影様。」

散々、シカマルくんを呆れ返らせるようなことをしておいて物凄く今更なような気もするけれど、火影室でくらいきちんとけじめをつけるべきだったなあ、と反省した。

「そうじゃなくて……お前もはたけでしょうよ。」
「〜〜っ!」

そうだった。すっかり忘れていたけどあたし、はたけになったんだった!
途端に照れ臭くなって顔が熱くなるのがわかった。呆然と立ち尽くしているあたしを見てはたけさんはクツクツと喉をならして笑っている。
背後でシカマルくんが何度目かの溜め息を漏らしているのが聞こえた。

「はあ…もうあんたら火影室をなんだと思ってんすか……オレは巡回行ってくるんでごゆっくり。」

すたすたと火影室を出ていってしまったシカマルくんに唖然としいたら、はたけさんが「ほーんとデキる子だよね、シカマルは。」とどことなく嬉々として呟いた。

あたしは、文句のひとつでも言ってやろうとはたけさんを振り返ったらーー

「シカマルはあー言ってたけど、どうする?」
「…っ!」

さっきまで座っていたはたけさんはいつの間にやら、あたしの目の前に立っていた。そのまま両手を腰に回されて抱き寄せられてしまった。上からあたしを見下ろす、はたけさんは優しく微笑んでいて思わず抱き締め返したくなってしまいそうだ。

「ど、どうするって…火影室でやることなんて決まってるでしょ!早くして仕事して下さい!」
「えー」
「えー、じゃありません!駄々こねない!」

眉毛を下げて、子犬みたいな目であたしをじっと見つめるはたけさんに、またもや、きゅんとしてしまった。もうちょっとこのままでいたいかも…なんて、つい思ってしまう。……ダメダメあたしがしっかりしないと!

「はいはい、分かりましたよ……奥さん。」
「……っ、当たり前だから!」

奥さん、という響きに思わずどきっと心臓が跳ねた。自分が「はたけ」になったこともそうだけど、まだこういう呼ばれ方には慣れていないし、恥ずかしい。

「くくく、顔赤いよ?」
「だって、まだ…その、慣れないんだもん。」
「はあ〜もう、お前ってなんでそんなに可愛いの。あー仕事したくない。」
「きゃ…! な、なんでそうなるの!?」

急にがばっと思いっきり抱き締めらて、ばくばくと心臓が音を立てて暴れだした。「と、とにかく、離して!」半ば無理矢理はたけさんを引き剥がしたら、すっごく不服そうな顔をされた。いや、あなた火影なんだから。

「じゃ、仕事頑張るから、帰ったらカカシさんって呼んでよ?」
「う……努力します。」
「楽しみにしてるよ。」

にこにこと愉しげに笑うはたけさんにあたしは頭が痛くなった。
だって、結婚したってあたしにとってはたけさんは、はたけさんなんだもん。もちろん、名前で呼ぶのが嫌ってわけじゃないけど。長年「はたけさん」と呼んでいた人を急に名前で呼ぶのは、恥ずかしい。
だけど、はたけさんのことだから、あの手この手で迫ってきそうだ。

チラリと視線をはたけさんに移したら、さっきまでサボっていたのと同一人物とは思えないほど、真剣な表情で書類を読んでる。相変わらず、切り替え早いなあ。

多忙極めるはたけさんを労ってあげるべく、あたしは彼のリクエスト応えてあげないとな、と思って火影室を後にした。