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今回の任務はあたしが指揮を取ることになっていた。

里から少し離れたところに火の国有数の繁華街がある。商いが盛んなその町には近隣の村から百姓や商人がたくさん出入りしているのだが、町の関所を管理している大名が高い通行料を取って懐を肥やしていた。

あたしたちの任務はその悪名高い大名に通行料撤廃の書類にサインさせることだった。

こういう任務は誘導尋問の得意な忍が選抜されることが多いけれど、大名が無類の女好きらしく色事任務になったそうだ。
大名さまお気に入りの遊廓で遊女のふりをして書類にサインさせる簡単な任務だ。なのにあたしは、あの美人なはたけさんの元カノと二股をかけられていた疑惑のせいで(しかもあたしは2番目の女!)油断をすればため息ばかり出た。

そんなあたしを見て、はたけさんは間延びした口調で「元気ないみたいだけど、大丈夫?」と聞いてきた。あたしは、はたけさんのせいです!と言ってやりたかったけど、そんなこと口が裂けても言えそうにない……、それでもサクラちゃんにまで変な心配をかけるわけにはいかないし、気を取り直して作戦の確認をする。

「サクラちゃんは座ってニコニコしてるだけでいいから。」

続けて、相手をぶっ飛ばしたくなっても我慢してね?とサクラちゃんに念を押すと、彼女はたけさんとふたりして苦笑いを浮かべた。





目的地の花街は大きな繁華街の中にあるとだけあってとても賑やかだった。花街独特の華やかさにサクラちゃんは緊張していたけれど、彼女の髪の色にぴったりの桜色の振袖を着て、さながら振袖新造となった彼女はちょっぴりうきうきしているように見えた。そんなサクラちゃんをはたけさんは少し呆れたように眺めている。

「馬子にも衣装ってやつだね。」
「もう、素直に似合ってるって言ってあげればいいじゃないですか〜」

はたけさんは、あたしに図星をつかれたようで眉毛を下げて困ったように頭を掻いて笑った。きっと、可愛い教え子が粧し込んで色事紛いな事をするのが複雑なんだと思う。

あたしはサクラちゃんを先にお座敷に送り出して自分の着物を整えた。太夫の帯結びは慣れていないと、なかなか骨が折れる。

「あ、はたけさん、この櫛、挿してもらってもいいですか?」

あたしの頼みにはたけさんがふぅ、と一呼吸置いて「しょうがないな…」とあたしの後ろに回った。途端にはたけさんに抱かれた日のことが鮮明に蘇ってきた。あの日もはたけさんあたしの後ろに回ってあたしの髪を乾かしてくれたのだ。でも、あの頃のはたけさんにはあの美人な彼女がいたんだと思うと泣きたい気持ちになった。
櫛を挿すはたけさんの指先があたしの髪を掠めるたびに、胸の奥が嫌な感じにざわめいてチクチクと痛む。もやもやとした感情が心の中にじわじわと侵食してきて、堪らず唇を噛みしめた。

「はい、できた。」

はたけさんの声にはっとして、平静を装って後ろを振り返ろうとしたときーー

「………っ」

突然、後から抱き締められて、あたしは息が止まりそうになった。はたけさんはそのままあたしの耳元に唇を寄せて囁いた。

「行くな、名前…」

それがいつもの柔らかい声色じゃなくて、低くて甘い、頭の芯がびりびりと痺れるような声で、あたしは口から心臓が飛び出しそうになった。

あたしは訳がわからないのとびっくりしたのとで目を白黒させた。はたけさんは何を考えているのかさっぱりわからない……!彼女がいたくせに何であたしに優しくしたの?今だって何であたしを引き留めるの?
わからない……わからないけれど、こんな風に抱き締められたら本当に行きたくなくなってしまう! ーーそのとき、襖の隙間からチラリとサクラちゃんが見えた。酒の回った変態大名にお尻を触られそうになって困り果てている……
あたしは必死に理性を呼び戻して、はたけさんの腕を振りほどいた。そのままくるりと振り返り、上目遣いにはたけさんをじっと見上げて、三秒数えるーー

「お戯れはお止めください……カカシさま。」

さながら太夫のような台詞回しに、一瞬、豆鉄砲を食らったような顔をしたはたけさんは、すぐに困ったように眉を下げてお座敷へ上がるのあたしを見送った。