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起きてすぐ、ベッドの上で憂鬱な気分になった。今日は例の色任務の日なのだ。

今回は色を売るというほどのものではなく、どちらかと言えば接待に近いような内容だった。とはいえ未成年のサクラちゃんに不埒な男どもの酌をさせるのは心許ない。5代目とはたけさんは随分、過保護だなぁと微笑ましく思って家を出た。

「名前さん!おはようございます!」

大門の前にはサクラちゃんしかいなかった。はたけさんは?と聞くと「カカシ先生はいっっっつも遅刻すんるですよ。」とサクラちゃんは諦めたように言った。暗部では任務に遅刻するはたけさんなんて見たことがなかったから少し驚いた。上忍師のはたけさんはえらくマイペースなようだ。

でも、正直なところ任務よりもはたけさんと顔を合わせる事にどんよりした気分になっていたから、集合場所にはたけさんがいなかったのは少しホッとした。





テンゾウ先輩たちと呑みに行った日、はたけさんにお水を持って来たのは異国情緒のある美人だった。顎のラインで切り揃えられた黒髪が艶やかに揺れていて、はたけさんはその人に懐かしむような眼差しで「髪、切ったんだね。」と言った。その人もはたけさんと同じような目をして微笑むと、悔しくなるくらい自然にマニキュアの似合う綺麗な手をはたけさんの肩に置いた。その薬指にはキラリと指輪が光っている。あたしは直感的に2人は好き合っていたんだと分かった。

あたしは自分の知らないはたけさんがいることに嫌な気持ちになった。強がってテンゾウ先輩に綺麗な人ですね、と言ったら「あの人、先輩の元カノだよ。」と先輩が耳打ちしてきた。なんとなくそうなのかな……と思ってはいたけれど、急に現実を突き付けられて、心臓をぎゅっと握られたような気分だった。

「昔の話だけどね……4年ぐらい前かな?あの2人お似合いだったのにどうして別れたのかな……」

テンゾウ先輩の言葉はあたしの心をズタズタに引っ掻き回した。
……だって4年前って、あたしが初めて色任務に出た頃でしょ?あの日のことは一晩だけのことだと分かっているし、勘違いを起こすほど馬鹿じゃないけれど、はたけさんを信頼しての頼みだったのに。なのに…なのに、はたけさんには特別な人がいたの?
確かにそういう相手がいるのかきちんと確認しなかったけれど……
あたしは裏切られたような気分だった。それと同時にこんなにも傷ついているは、はたけさんの事が好きだからだと気がついてしまった。

あたしは、はたけさんに対する屈辱的な気持ちとショックな気持ちが混ざってお酒を飲まずにはいられなかった。テンゾウ先輩の制止も無視して普段は頼まない度数の強いアルコールを煽る。

しばらくして他のテーブルに呼ばれた彼女を注意深く見れば見るほど、その人がはたけさんの女だったということは明白だった。
例えば、悪戯が過ぎるお客さんの手を払いのけるときの彼女の身のこなし方は、はたけさんそのものだった。きっと悪質な客への対処法をはたけさんが教えたのだろうと邪推してしまう。

案の定、酔い潰れてしまったあたしをはたけさんはおぶってくれようとしたけど、それを断っていつものようにテンゾウ先輩に家まで送り届けられた。
はたけさんは「そ、気を付けてね。」とだけ言ってあたしがテンゾウ先輩におぶられるのを黙って見ていた。その事にも腹が立ってきて「はたけさんなんて嫌い。」とテンゾウ先輩の背中で言ったみたいだけど、それは覚えていなかった。





結局、はたけさんが集合場所に来たのは1時間後だった。サクラちゃんは待ちくたびれて呆れ返っていたけれど、あたしにとってはたけさんにいつも通りの振舞いをする心の準備が出来たからちょうど良かった。