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「そう言えば、お前たちいつからそんなに仲良かったわけ?」

宴も酣となった頃、はたけさんは思い出したように言った。あたしとテンゾウ先輩ははたけさんの意図することがさっぱりわからなくて首を傾げて顔を見合わせるばかりだ。

「テンゾウ先輩、なんて呼ばれちゃってさ。まったく妬けてくるよ。」

はたけさんらしからぬ発言にテンゾウ先輩は「先輩酔ってます?」と訝しい顔をしている。

そりゃあ、はたけさんの知っている暗部時代のあたしは入隊したての下っ端で、隊長だったはたけさんに気安く話しかけられるような愛想は持ち合わせていなかった。

「テンゾウ先輩とはずっと同じ班だったってだけです。……それにはたけさんと暗部で一緒だった期間って、一瞬だったじゃないですか。」
「名前はひどいねぇ。こんなに可愛いがってあげてるんだからカカシさんってぐらい呼んでくれてもいいでしょーよ。」

そう言ってはたけさんはあたしの頭をパックンを褒めるときみたいに思いっきり撫でた。可愛がるってそういう意味!?はたけさん、絶対あたしのことを忍犬と間違えてる……!

「だってはたけさん、カカシ先生って呼んだら怒るじゃないですかー!」

いつの間にかあたしの肩に手を回しているはたけさんから逃れようと身を捩って反論すると「逃げちゃだーめ。」と、ぐっと抱き寄せられてはたけさんの厚い胸板に頭を押し付けられた。

あたしは、はたけさんの腕の隙間からテンゾウ先輩に必死に助けを求めて視線を送ったけれど、テンゾウ先輩ときたら触らぬ神に祟りなし、といった具合で呑気にビールを飲んでいる。

「お前に先生、なんて呼ばれたらおじさん傷ついちゃう。」

なーにが「傷ついちゃう」だ。そんな可愛い子ぶってもほだされたりしないんだから!
さっきまであたしの肩に置かれていたはたけさんの腕は、するりと脇腹をくすぐって、今はあたしのウェストを撫で回している。おじさんどころか、セクハラおやじめ!

ちょっぴり失礼なことを思ったけれど、これは心の正当防衛。そうでもしないとはたけさんに流されてしまいそうだった。
だって、拗ねたような口調のはたけさんはちょっと可愛いかったし、言葉とは裏腹に強引な仕草にも思わず胸を高鳴らせてしまったから……
それに、眉毛を下げてご飯をおあずけさせられた犬のような表情をしているのに、目だけは獲物を狙う肉食獣みたいにギラギラしていて、否応なしに食べられてしまいそうだった。

「あ、えっと…」

酔っぱらったはたけさんなんて滅多に見られるもんじゃないと思ったけれど、近すぎる距離とはたけさんの怪しい手つきに流石に困っていたら、見かねたテンゾウ先輩がやっと助け舟を出してくれた。

「ほら先輩、名前が困ってますよ。顔でも洗って来てください。」

テンゾウ先輩ははたけさんを無理矢理トイレに押し込んで、それからあたしに「あの人が酔っぱらうってあんまりないんだけど…」と呆れたように言った。

しばらくして、トイレから戻って来たはたけさんはいつも通り、困ったように笑って頭を掻いた。

「いやぁ、オレも歳だねぇ。」

沁々と言うはたけさんはやっぱりいつものはたけさんに戻っていたけど、あたしははたけさんの厚い胸板を思い出して、また捕まったらどうしようと内心どぎまぎしていた。

「………カカシさん、お水飲みますか?」

はたけさん、と呼んでまた拗ねられては困るので恐る恐る、でも勇気を出してカカシさん、と声を掛けた。
するとはたけさんはスッと目を細めてあたしを見た。それから眉毛を下げてふんわり笑って言った。

「良い子。大変よくできました。」

どうやらはたけさんはまだ酔っぱらっているらしい。
今度はあたしの髪を櫛くように優しく頭を撫でられて息が止まりそうなほど、どきっとした。
ばちん、あたしとはたけさんの視線がぶつかって、その瞳から逃れることができなくなった。いつもの物腰柔らかな雰囲気はそのままなのに眼光だけは熱っぽく揺れている。

あたしは、心の中はざわめき立っているのに、今まで散々、色を売ってきたせいで頭だけは妙に冷静で、ヤバい……これってキスしちゃう流れだ……とすぐに分かった。
避けなきゃいけないと分かっているのに、あたしの体は全然言うことをきかない。

「先輩、名前はボクの後輩でもあるんですからあんまりセクハラしないでくださいよ。」

どうしよう…!そう思ったところで、またもテンゾウ先輩が助けてくれた。
あたしは思わず、セクハラって!と吹き出してしまって、テンゾウ先輩は「テンゾウ……お前、セクハラはないだろ。」とはたけさんに睨まれてカエルのようになっていた。
先輩には可哀想だけど彼の賢明な判断に感謝だ。
でも、もしも……もしも、あのままだったらどうなっていただろう……と好色めいた好奇心が湧いてしまったのはあたしだけの秘密だ。