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「ほーんと、名前は小悪魔になっちゃったよねぇ。」

甘栗甘でサクラちゃんと別れてから、はたけさんはふぅ、と息を吐いてちょっぴり困ったように笑った。
あたしは暗部にいた頃からはたけさんのこの顔が好きだった。眉を下げて微笑む姿から物腰柔らかな雰囲気が伝わってきてなんだか安心する。それでいて、強くて熱いハートの持ち主なのだ。

「困っちゃいました?」

少しだけ、はたけさんに意地悪をしてみたくなったあたしは片眉を上げてはたけさんを見上げた。はたけさんときたら相変わらず微笑を湛えて、ちっとも困ってないのに「いやぁ、参ったよ。」と頭を掻いている。あたしの攻撃なんて歯牙にもかけていないくせに。

「もう、はたけさんってばずるいです。今の渾身一撃だったのに…」
「お前ね、あんまり大人をからかうんじゃないの。」
「そうやって子供扱いする〜」
「そりゃあ、10歳も離れてればそうなるでしょうよ。」
「あたしだってもうハタチになりました!大人です〜!」

唇を尖らせているあたしに見て「名前ももう二十歳か〜」と沁々するはたけさんは少しおじさんくさい。

「うわ、その反応おじさんみたいですよ……」
「流石におじさんは傷つくよ?」

あたしが眉をひそめてはたけさんに視線を送るとはたけさんは眉根を寄せて一層困ったように笑った。笑うとできる目元の皺が前より深くなぁ……とこっそり思った。だけどそんな事は、はたけさんには取るに足らない問題で……つまり、はたけさんはイケメンすぎるのである。

現にあたしはこのまま家に帰るのが寂しいような、勿体無いような気持ちになってしまっている。

自分でも馬鹿だなぁ、と思うけれどはたけさんと一緒の任務と聞いて少なからず心がざわめいた。純粋に彼のことを尊敬しているけれど、あの日、はたけさんとの初体験の思い出は、あたしにとって特別なものになった。

「あ、はたけさんこの後空いてます?テンゾウ先輩と呑みに行くんですけど…」

あたしって本当に馬鹿。
やっぱり、はたけさんと別れるのが名残り惜しくって、つい、ナンパ紛いな事を言ってしまうなんて。

あー!もう!本当に馬鹿!
色任務に失敗して落ち込んでいたあの日も、こんな陳腐な言葉ではたけさんを誘惑したっけ……、果たしてあれが誘惑と言えるのかは微妙だけれど。
はたけさんはあたしに「小悪魔になっちゃって〜」なんておどけて見せるけど、いつまで経っても彼の前では大人になれない自分に卑屈になって、はたけさんの返事を待つ時間がすごく長いように思えた。

けれど、それは要らぬ心配ではたけさんはすぐに「お、いいね。」と言った。それから顎に手を当てて考えるような仕草をした。そんな姿でさえも絵になるなぁ、と思ってしまうあたしは相当焼きが回っている。だって、これじゃあまるで本当にはたけさんの事が好きみたいだ。

「でも、名前とお酒呑めるなんて大人になったね。」

はたけさんは、眉毛を下げてふんわり笑ってあたしを見た。

あ、この顔あたしの好きな顔だ……

思わず、どきりと心臓が飛び跳ねて、地面に足がくっついたみたいに動けなくなった。何か言わなきゃ、そう思えば思うほど言葉が出てこなくて、ドキドキと音をたてる心臓だけがうるさい。

「可愛い後輩が一人前になって嬉しいよ。」
「!?」

一瞬、何が起こったの分からなかった。

なんにも言えないまま立ち尽くしていた、あたしの頭をはたけさんは優しくぽんぽんと撫でた。同時にふわっとせっけんの香りがして、はたけさんの手の感触とその洗剤の香りがとても心地良かった。

このままずっと、こうしてて欲しい……

そう思ったところで我にかえって、その途端に恥ずかしくなった。

頬っぺた熱いし、絶対顔赤い…!散々、色事任務をこなしてしてきたくせにこんなことで恥ずかしいなんてありえない!それも、これも全部はたけさんがイケメン過ぎるから悪いんだ!

「もう!子供扱いしないでください!」

恥ずかしいやら悔しいやらで、頭が真っ白のあたしは頬っぺたを膨らませてそう言うのが精一杯だった。それなのに、はたけさんはあたしの膨らんだ頬っぺたを突っつきながら、全然困ってないくせに「ごめん、ごめん。」といつもの困ったような笑顔で言った。