31の思春期


「アイスを食べながら、このアイス○○っぽいなーって思う」ってリクだったのに・・・すいません
らいじん お馬鹿な話

 平和島静雄は甘いものが好きである。よく印象に合わないだの予想外だのといわれるが、好きなものは好きなのだから仕方がない。そして、甘い物好きの当然の帰結として、アイスクリームには目がない。とりわけ夏場の今、冷たい菓子は生活必需品である。弟の幽も大好きであるため、両親はいつもスーパーの帰りに安売りのアイスを買ってくる。結果冷凍庫にはガリガ○君を初めとする安いアイスが詰まっているし、中元だとかで家に送られてきた大量のジュースのいくつかは、紙コップに移し変えられて冷凍庫の中で即席シャーベットと化している。風呂上りに食べるアイスは最高だが、冷房の利いた部屋で食べるアイスもなかなかおつなものだ。要するに静雄はアイスクリームが大好きだった。
 そんなわけだから、有名アイスチェーン店のセール実施の噂を聞いて、迷わず足を運んでしまったのも仕方のないことだと言えよう。ダブルがシングルの値段で食べられるお得なセールである。
 静雄はこの店の、キャラメルリボン味が大のお気に入りだった。初めて食べたとき以来ずっと大ファンである。理由を聞かれても「なんとなく」としか答えようがないが、あえて言うのなら味だろうか。酸味のある甘さよりも純粋な甘さのほうが好きな静雄としては、果物系統のアイスよりもミルクや砂糖の系統のアイスのほうが好きだった。
 だが、問題は、今回注文するのはダブルだということだ。高校生という身分である以上あまり金を持っていない静雄はこれまでシングルばかり注文していたし、だからいつも迷うことなくキャラメルリボンを指定できたのだが、今回はそういうわけにもいかない。
 店員の、少し年上に見えるお姉さんが「ご注文はどうなさいますか?」とにこやかに聞いてくる。制服のエプロンを押し上げるなかなか見事な胸元に吸い寄せられかける視線を引き剥がしてメニュー表を見る。上の段はキャラメルリボンを選ぶにしても(静雄は好きなものは先に食べてしまいたいほうだ)下の段をどれにしようか。どれもこれも美味しそうだ。悩みながらざっと見渡していると、ふと、一つのフレーバーの名前が強烈に目を引いた。
 ラブポーションうんたらかんたら。
 いかにもそれらしい真っピンクの、イチゴを使ったフレーバーである。別段イチゴ味が好きだとかそういうわけでもないのに何故目を惹かれてしまったのかというと、――とある男を思い出してしまったからだ。いつも両手を広げてラブとやらを振りまきまくっている同級生の少年。
 いやいやいやいや、激しく浮かびかけた思考を否定する。流石に臨也を連想してアイスを選ぶなど冗談ではない。冗談ではないはずなのに視線がピンク色に吸い寄せられる。脳内の葛藤を見かねたのか、単純に客が溜まりはじめてきたのかは定かではないが、お姉さんがせっつくように「どうなさいます?」と尋ねてくる。早いとこ選んでしまわなくては、と焦るばかりに、とっさにメニュー表の上を見て、目に付いたチョコレートなんとかとかいうフレーバーを適当に口にした。
「はい、キャラメルリボンと、チョコレートオレオですね。かしこまりました、少々お待ちくださいませ」
 お姉さんが完璧なスマイルを浮かべて静雄をレジのほうへと誘導する。見事な胸元がぶるんとダイナミックに揺れたが、それに目をやる心的余裕が今の静雄にはどこにもなかった。自己嫌悪がぐるぐると思考を埋め尽くすばかりである。何故ってそのフレーバーはメニューの中で一番黒い色をしたアイスだったのだ。選ぶ瞬間脳裏によぎったのは、不幸にして紛れもなく見慣れた黒ずくめの学ラン姿だった。
 しばらくして手渡されたアイスは、見事に黄色と黒の二段になっていた。危険信号のようだが、確かに自分と臨也が並べば周囲には危険信号が鳴り響くことだろう。馬鹿なことを考えて思考をそらそうとする。何から?アイスの境目からだ。真夏の外気温のせいですでに溶けかけてきている二種類のフレーバーの境目では、絶妙な感じに黄色と黒が混ざり合ってマーブル模様になっている。
 この間の体育の授業で、蒸し暑い体育館でバスケをしたとき、むさくるしい男子たちの間に混じって一人だけ細い腕で次々とシュートを決めていた姿。時折立ち止まって無造作にシャツの裾で頬や額の汗をぬぐう仕草を凝視していたのは静雄だけではないはずだと信じたい。何故ってあからさまに薄い腹筋とへそが見えるのだ。顔や腕も十二分に白いと思っていたが、服に隠れた腹はそれ以上に白かった。無駄に視力のいい静雄には、割れ目を伝って流れる汗の雫や重力に逆らってふわふわと逆立つ薄い産毛のすじまでが見て取れた。そして後ろ姿だ。少し大きめの運動着の襟からのぞく異様に細い首のラインと、骨のかたち。その上を滝のように流れる汗。
 考えるな、考えるな、と思えば思うほど考えてしまう。交じり合う黄色と黒。交じり合う、静雄と、・・・・・・
 なりふり構わず大口を開けてアイスに噛みついた。口の中に広がるキャラメルとチョコレートの強烈な甘さ。普段ならば大喜びしつつ味わうところだが、今は正直それどころではない、すぐにでもトイレを見つけて駆け込んでしまいたいところだ。あいつのアレってどんな色してんだろうとか、付け根もやっぱ腹みてえに白えのかとか、でも体毛は髪と同じ色してるはずだよなとかそんなことばかり考えていたせいで、静雄はそれから当分チョコレート菓子を食べることが出来ず、大好きなはずなのにと周囲からはたいそう不思議がられたのだった。

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