眠気覚まし


MIN○IA見てて思いついた話

 眠気が覚めるようなもんねえか、と聞いたら、机の上にタブレットがあるよ、と返事が返ってきた。市販のものらしい青いタブレットの口を開けて手の上に取り出した丸い粒を、ひとつ噛み砕いてみる。――一気に目が覚めた。むしろ吐きそうになった。舌を刺す強烈な苦味と、鼻を通り抜けるすさまじい匂い。涙が出てきた。頭の中まで冷え切ったような気がして、思いきり顔をしかめる。
 慎重に、二つ目を口に入れる。用心していたはずだというのにまた脳天を突き刺されて、思わずごくんと飲み込んでしまった。後悔した。粒がもたらす冷気のせいで、一気に喉を通り抜け食道に落ちていくさまがありありとわかる。むせかけて咳き込み、置いてあった水を飲んだ。息を吸い込むたび喉の奥まで冷たい空気が通るのがわかる。
 三粒目に手を伸ばしたとき、呆れたような声がかかった。
「シズちゃん、馬鹿なの?どんな目にあうかわかってんなら何で手に取ろうとするのさ」
「寝たくねえんだから仕方ねえだろ」
 少なくとも、効き目は抜群だ。嫌というほど目が覚める。
「何でそこまでして起きるの、寝ればいいじゃん」
「てめえがまだ起きてんだろうが」
 せわしなくPCのキーをたたいていた臨也が、一瞬、完全に動きを止めた。
「・・・・・・は?
 え、何、シズちゃん、俺が寝るの待ってたの?」
「あたりまえだろーが」
 むしろそれ以外に何があるというのか。
 わかりきったことを聞いてくる臨也に呆れていると、彼がなにやら顔を真っ赤にした。慌てたようにぶんぶんと手を振る仕草がかわいい、和みかけてはっと我に返る。そうだこんなことをしている場合ではなかった。寝てしまう。もう一度青いタブレットを手に取ろうとして、静止の声をかけられる。
「ちょっと待ってて。もう、すぐ終わらせるから」
「すぐって・・・てめえ山みてえに仕事が残ってんじゃなかったのか」
 無理すんな、というと、顔の赤みがなおさらひどくなった。熱でも出たのだろうかと心配になって手を伸ばそうとすると、「いい、いいからシズちゃんは待ってて!!」となにやら焦った様子で言われる。そして本当にすぐにPCを閉じて書類を片付けてしまった。
「・・・いいのかよ」
「じ、実際あと30分くらいで終わる予定だったし、これなら明日の朝でも片付くから大丈夫」
 早く寝ようよ。
 怒ったような足取りで寝室へ向かおうとする彼を後ろから抱き上げた。
「ちょっ、何すんの!?」
「疲れてるだろ」
 連れてってやる、というと、彼はなにやら疲れきった様子でぐったりと静雄にもたれかかってくる。
「もう、シズちゃん天然すぎ・・・」
「ああ?何がだよ」
「いい、気にしないで・・・」
 仕事先の女の子とかにも同じことしてないだろうねええ、と怨嗟混じりの声音が聞こえた。それからもしばらくぶつぶつ何やら呟いていたらしかったが、寝室に二人で入り、ベッドの上に下ろして抱きかかえたあたりからはとうとう何も言わなくなってしまった。
 機嫌を損ねてしまったのだろうか。さすがに今日は静雄も眠いし別に何もする気はない、一緒に寝るだけなのだが。二人で同じ家にいるのだから、同じ場所で同じときに寝たいだけだ。別段おかしなことでもないはずだが、何をこんなに顔を赤くして怒っているのだろう。
 まあいい、寝て起きれば忘れているだろうと、静雄はそのまま彼を腕に抱きしめて、ことんと倒れこむように眠りに落ちた。

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