原子番号11


ROBOTさんは、「深夜の密室」で登場人物が「恋する」、「試験」という単語を使ったお話を考えて下さい。と言われたので らいじん

 夜の校舎からは枯れた海の匂いがした。中でもあまり得意とは言いがたい特別等の隅の教室の一つ、前から三番目、右から五番目の席に静雄は座らされている。黒板の前、一割大きな教卓の前には見慣れた少年が立っていて、なにやら難しげな顔をしてシャーレの中に入った銀色の固まりを弄繰り回している。
 ほんのちょっとだけでいいんだよ。あんまり多いと扱いきれないんだ。大掛かりな実験だと、でっかい塊を25mプールに投げ込んで火柱を上げたりさせるらしいけど、さすがに校舎を壊しそうだからね。シズちゃんはどうせ死にやしないし、俺は俺でちゃんと逃げ切るだろうけど、弁償するのはいやだなあ。言い訳めんどくさいしね。
 もう一つ、一回り大きなシャーレを棚の中から取り出し、並べてある細長い口をしたボトルからすこしだけ水を注ぐ。蒸留水ってやつだよシズちゃん、飲んだらダメだよ体に悪いからね。飲むんなら水道水のほうにしてね?
 別に喉渇いてねえし、と反論するより先に臨也がナイフを取り出した。反射的に身構えるが、彼はそれを静雄に向けたりもせず、銀色の塊に当てる。すっごく柔らかいんだよ。ほら、鉄でもこんな簡単に切れちゃうでしょ。これでも金属なんだから面白いよねえ。彼の言うように、塊はまるで粘土のようにくにゃりと切れた。そのまま口に含んで噛んでしまえそうだ、といってみると、腹のそこから笑われた。口の中の水分吸って爆発しちゃうよ!!別にシズちゃんの頭が多少吹っ飛ぼうが俺は構わないけどね、自滅は辞めてよみっともないから!
 むっとしたが、言われてみるとその通りなので黙った。その間にも臨也は切り分けた小片を慎重にピンセットでつまみあげ、もう一つの皿に写そうとしている。
 シズちゃん、ほら、ちゃんと見てて。
 ぽん、と軽い音を立てて、小片が火を噴いた。心なしか黄色味がかった炎だ。きれいでしょ、呟く臨也の横顔は、炎に照らされて黄色く浮かび上がってみえた。風は冷たい。横顔の向こうの壁には人体模型の骨格図がある。骨格図の上を照らし出された影が覆う。追いかけるでもなく、追いかけられるでもなく、校舎の隅で勝手に器具を持ち出してこうやって炎を見ている。
 難しいことは考えられない。考えたくはないから、ただ、燃え尽きた小片が白く崩れ落ち、臨也がそれを捨てるのを、骨格模型の上に照らし出された細い白い横顔とともに、眺めるでもなしに眺めた。
 回答は保留する。

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