エンゼルダスト


※ほくろ、キス、匂いでお題いただいて書いたもの

 右の肩甲骨の下、骨の影のうつる場所には、目立たないほくろがある。

 終わった後だらしなく寝そべるのが好きな彼を、好きなだけ眺められるようになった。浮き出る骨の凹凸、細い首、なだらかな肩、に続くあばらを一つ一つたどり、腰骨を見つめる。狭く深い寛骨の出っ張りを背の側までたどってゆくと、退化して僅かに尾骨を残す脊椎の終わりにたどり着く。
 彼の体は嘘のようにまっさらな皮膚をしていた。無数に負ってきたはずの怪我も、引きつれた筋になってかすかに残っているだけだ。それはまるで奇跡のように、静雄の目に映った。この体は嘘をつく。彼そのものとそっくりに、美しいふりをして、傷つきなどしないふりをして。

 それをみつけたのは、初めて彼と同じベッドで目覚めたときのことだった。
 今とそっくりに枕を腕と胸の間に挟みこみ、組んだ腕の上に細い顎を乗せ、背中をさらした彼のすがた。彫刻めいたつくりの背中をようやく余裕を持って眺めながら、骨の間にそれを見つけた。完全な白の上に散った、ほんの一箇所の目立たない黒。アンバランスなほくろを知るのはきっとこの世に一人きりで、それが静雄を誇らしくさせた。

 この体は本当に彼自身によく似ている、繰り返し思う。完全に見えてどこか過剰で、釣り合いが取れてみえてどこか不均衡だ。彼の美しさを完全にするのは、彼が内包する不完全さなのだと、小難しいことを考えて頭が痛くなった。

 子を埋めない腰を抱き寄せながら、限りない海を思う。彼を腕に抱きこむたびに、背中の骨を舌で辿るたびに。彼自身も知らないだろうほくろの上にキスを落としながら、そっとその肩に顔を押し付ける。
 ずっと目を背け続けた、甘ったるい彼の匂い。間近でそれを嗅ぎながら、振り向く彼とキスがしたかった。何度でも、何度でも。いつか飽き足りるまで。

End.

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