指先から冷える恋


 眠いね、とぼんやりした声で呟くのが聞こえて振り返る。今にも寝入ってしまいそうなとろりとした目で彼はこちらを見上げている。

 寝りゃいいだろ。
 寝てもいいの?

 安っぽいベッドの片隅にうずくまった臨也に、試すように聞かれた言葉に静雄は答えられなかった。距離感の不可解さが二人にはいつも付きまとう。街のさなかであれほど派手な殺し合いをしながら、こうして互いの家を知っている。予告なしに訪れられ、義務などないのにそれに応じ、鍵を開けて臨也を入れる夜はもう何度目になるかわからない。

 だが今日彼は口を利かない。それが幾分奇妙で、問いただすこともできない静雄は所在無く彼に背を向けて煙草をふかしていた。

 静雄のことだけは一緒にはできないのだと臨也はいう。

 彼との間に張りつめている何か得体のしれないものを、消し去ってしまえれば楽なのにと夢見た。それは存外簡単なことなのだと、理屈のうえでは理解してもいる。後ろを向けばいいだけなのだ。互いが何の理由ももたない今、抱きしめてやればいい。言うべきことなど何もないのだから、何も言ってやることはない。似ているようで違うこと、だが静雄の意思はどちらも選ぼうとしないのだ。

 臆病者と自分を罵ることも満足にできない。互いにとっての最善を語る資格すら持っていない。言い訳じみた言葉を繰り返せば繰り返すほど、喉が軋んでかすれていくような気がした。

 冷え行く気配を数えながら、静雄は苛立ちに唇を噛む。
 振り向く覚悟を決めるときまで、彼はそこにいてくれるだろうか。

 わからない。
 わからないままの夜がまたひとつ終わろうとしていた。


End.


素敵なお題ははまたしてもからすまさんより。
いつもありがとう!


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