「もー!もうちょっとがんばってよ!」
わたしが憤慨しているのには理由がある。それは、目の前のこのひとが、あまりにも不甲斐ないから。
「何が女子のことなら俺に聞け!だよ!ぜんぜんダメじゃん!」
「す、すまん……」
「声をかけるくらいできるでしょ、せっかくレース観に来てくれてるんだから!」
東堂尽八がわたしに恋愛相談をしはじめたのは最近のことである。となりのクラスの女の子のことを好きだけど、どうアプローチしていいかわからない。そんな相談を受け、友達のためなら人肌脱ごうと、わたしは彼に協力することとにした。
しかし、この男。口ぶりのわりに、押しが弱いというかなよなよしいというか。とにかくダメダメなのである。
「しかしだな、どうも彼女を前にすると頭が真っ白になってしまって……」
「そんなんでどうするの、あの子は熱心な新開ファンなんでしょ?」
「うむ……」
「振り向かせてやる!くらいの気合がなくてどうする!?しっかりしろ東堂尽八!」
こうして、昼休みたまに相談に乗ってやっているというのに、進展は全然ない。まだ顔見知りにすらなれてないというのだから、頭が痛くなる。
お弁当のコロッケにかじりつきながら、東堂をきつく叱る。いくらたくさんの女の子にサービスできても、意中の人に気の利いたことも言えないようじゃ、全然意味ないじゃないか。
「どうすればいいと思う?」
「まず話し掛けなさい」
「はい」
「返事はするよね、いつも!」
「はい……」
小学生の時から、成績表には面倒見がいいと書かれていた。だれかに頼られると何とか力になってあげたいと思ってしまう。そういうおせっかいな性分が、わたしを面倒見の鬼に育てあげた。
だから、恋愛相談を受けることも多い。ほとんどは女子だけれど、ごくたまに、東堂のような男子からだって相談される。わたし自身は経験が豊富というわけではないのだが、第三者からの意見が必要なときもあるらしい。
「いい?意思決定も行動も、するのは東堂なんだよ?」
「分かってる」
「分かってるなら、ちゃんとアドバイス活かしてくださいよ」
「すまん」
「……購買のコロッケ、おごりね」
「了解だ!」
20141229