自分が甘いという自覚はある。
とくに、成宮鳴相手には。ヤツとは小学生の時からの腐れ縁でなんだかんだ高校まで同じになってしまった。天才だとか囃し立てられているのをいつも遠くからだったり近くからだったり、ずっと見ていた。見ていたといっても好きで見てたわけじゃなくて、自然と視界に入るというだけなのだが。

「宿題写さして!」
「腹減ったからなんかちょーだい!」
「俺からの電話は3コール以内に出ろよ!」
私はさしずめ従者だ。やりたい放題のわがまま王子に呆れ憤りながらもつい従ってしまう。
野球部の怖い顔をしたセンパイにも怒られてしまった。私が何でもはいはい従ってしまうから、鳴が調子に乗るのだと。そしてお前自身はそんな感じでいいのかと。もっともである。

「ねえ、寒いからカーディガン貸して」
「…私のじゃ、鳴には小さいでしょ」
「いいから!」
いや、絶対に伸びるし嫌だよ……と思いつつもカーディガンを脱ぐ。意思に反して勝手に動く体が悲しい。鳴のいいから!で強引に話を進められてしまうことはもう何回目だろう。100回目くらいだろうか。
天気予報で肌寒くなると言っていたのだから、カーディガンくらい自分で持ってきてほしい。これを鳴に貸したら私が寒い。
「うわ、温もりが気持ち悪い 」
「今まで着てたからね」
「ちっさいし」
「最初に言ったよね」
「もーいちいちうるさいんだけど!」
こっちのセリフだよ、と思うけど言わない。すみません、センパイ。私はまた鳴のワガママを強くしていると思います。
それにしても可愛く見えるという理由からだいぶ大きめのカーディガンを買っていてよかった。鳴が野球部にしては細身だというのも。まあ、それでもやはり男女差は埋まらないけれど。あんまりピチピチだと、鳴に怒られる(理不尽)。
「寒い」
ワイシャツ一枚でいるのは、冷え性の私にとってはすこし辛い。鳴を非難するように、わざと拗ねて言う。こんなことくらいでは、王子様は罪悪感を感じたりはしないだろうけど。
しかし、何を思ったか彼は自分の鞄を開けて、ゴソゴソしだす。期待せずにそれを見守る。鞄の中汚いな。近いうちに整理しろって言われそう。
「これでも着てれば!」
「んん!?」
ばさあ、と鞄から引っ張り出された何かが顔にかぶさる。引っ張り出してから投げるまでが早かった。さすがである。
もそもそと顔からそれを離すと、学校指定のジャージ。もちろん鳴のである。
「…鳴、これ洗っ」
「何!?」
「…校則違は」
「いいから早く着なよ!」
私のカーディガンを着ないで、鳴がこれを着ればいいのに。制服の上からジャージを着ることは禁止されている。生活指導の先生に見つかったら、ふつうに怒られる。そういえば鳴は髪の色で目をつけられたとかなんとか言っていた。これ以上校則違反をすると反省文書かされる、と。
しかしお得意のいいから!に押されて、つい着てしまう。大きい。袖から指先がちゃんと出ない。やりすぎると萌え袖も可愛くないと友達が言っていた。これはおそらく可愛くないだろう。それに土の匂いと鳴の匂いが混ざったような匂いがする。嫌ではないけれど。
「似合う似合う」
「ただのジャージじゃん…」
「俺の、ジャージでしょ」
みんな同じなんだから鳴のも何もあったもんじゃないが、本人が満足そうなので黙っておこう。

20141011
「ジャージは校則違反だろ」
「すみません、カーディガン忘れました」
「朝着てたのは何だ」
「……すみません」
「成宮だな」
「本当すみません」