どうしてこの女はこんな態度なんだ。
頭に残る疑問を振り払うように、強くまばたきをした。まず、男として意識されていない。それどころか対等に見られている気がしない。
登れるうえにトークもキレる。しかもこの美形。女子のファンだってたくさんいるし。いる、のに。
「今日も元気にうるさいね、東堂」
彼女はいつだって、俺にやさしくない。熱い視線を感じるのも、調理実習で作ったカップケーキをくれるのも、レースで黄色い声をあげるのも、彼女ではない女子だ。それどころかこの女は、俺の作ったカップケーキを勝手にさらっていくし、レースでは泉田に熱視線を送っていた。本当なんでだ。
「うるさくないだろ!」
「ああもうそういうとこがうるさい」
バカにしたように口元を緩めるくせに、とても優しい目をしている。なんなんだ、この態度は、表情は。俺のことをバカにするのに、そんな目で見るのは何故なんだ。そんなふうに見られたら、彼女の顔が見られなくなってしまう。なんでかというと、それは、まあ、あれだ。照れだ。
目をそらした一瞬のスキに、額を勢いよくぺシーンと平手で叩かれる。油断するとすぐこれだ。全力でオモチャにされている。
腹が立つ。とても、腹が立つのに、彼女に触られているという事実に浮かれてしまう自分がいることが悔しい。だから、嬉しいとか!なんでだ!バカか俺は!
「デコを叩くな!」
「だって触ってほしそうにしてたから」
「し、してない!何を言ってるんだ!?」
「毎朝やってんのに、毎朝そんな真っ赤になるまで怒らなくても…」
「怒ってると分かってるなら止めろ!」
本当はたぶん怒ってない。恥ずかしいんだか、嬉しいんだか、とにかくよくわからない気持ちでいっぱいになってしまっているだけだ。要するに、これもまた照れである。
叩かれた額を手でおさえる。当然のようにファンの女子はこんなことしない。俺のデコを毎朝叩くのは、この女ただ一人である。
「私がかまわなかったら、寂しがるくせに」
おかしそうに弧を描く口元。少しだけ細められた目。俺の知ってる女子には、こんなふうに笑うやつなんていなかった。女子らしさのかけらもないその笑顔に、こんなに心臓がうるさくなるなんて、どうかしてる。
彼女から顔をそむけて、両手でその顔を隠す。なんでこんなに熱いんだ、俺の顔!
20140729
お砂糖と卵