上手くもなく下手でもなく、それでいて子どもっぽい鼻唄が低いところからきこえてくる。そんな毎日。
あいかわらずバスケはそんなに楽しくもないし、あいかわらずお菓子は美味しいし、あいかわらずこいつはへにゃへにゃしてる。
高校生になって、秋田に来て、いろいろあったけれど、うーん…まあ変わらないことが多い。
話はかわるけど、年末年始の寮はひとがほとんどいない。実家に帰っていないのは、俺たちくらいらしい。いつもは入れない女子寮の彼女の部屋にかんたんにはいれた。
「宇宙の真理だわ」
こたつに埋まりながらミカンをむいていた彼女が急にわけのわからないことを言いだした。ひとふさを白熱電球にかざしながら、真理だなんだとごにょごにょ言っている彼女に首をかしげる。
彼女が文句をいいながらいれてくれた梅こぶ茶はすっかり冷め切っていて、センスのないマグカップの底にこびりついてる。
「いみわかんね」
「正直者ね」
「そのノリなんなの」
ふふん、と笑って持っていたミカンを食べる。ボサボサのあたまで笑う彼女は誰にも見せられないくらいみすぼらしい。室ちんの前で見せる姿とは大違いだ。
自分のまえに積まれたミカンの皮で建設されたタワーを指先でこたつの端によせる。
「紫原くんと正月をすごすなんておもわなかった」
「おれも」
「宇宙の真理ね」
「ちょっとなに言ってるのかわかんない」
彼女は高度なコミニュケーション技術をもっているので、たまに話が通じなくなる。
視界は良好、彼女がしまりのない顔で笑っているのがよく見える。むりやり結ばれた俺の前髪の結びめにはしゅみのわるい変ないろの星がくっついている。
彼女のえらんでくるものは、ことごとくしゅみがわるい。そーゆーのに疎い青ちんですら眉をよせるレベル。そのしゅみがわるいものたちは彼女が身につけるとおそろしく似合ってしまうのがむつかしいところだ。褒めるべきなのかそうでないのか。うーん、めんどい。
「とにかく、たのしいなあってことだよ」
「へー」
「前に、まさか紫原くんがわたしと同じ高校に進学するとはおもわなかったって言ったじゃん」
「そーだっけ?」
「えー言ったよ。おぼえてないの?ひどくない?」
「うざ」
ほんとうは覚えてるけど、なんか腹立つから覚えていないふりをする。そもそも俺が秋田に来ることを決意したのはすくなからず、赤ちんから彼女の進学先を聞いたからであって。だれにも言わないけど。(でもたぶんというかぜったいに、赤ちんはしってる)
ミカンの皮を無意味にちぎりはじめた彼女をしらけた目で見つつ、背筋をまるめて暖をとる。前から思ってたけど、このこたつ小さすぎる。
「今はそれも運命だったんじゃないかっておもうよ」
「…きもっ」
「きもくないですー、宇宙の真理ですー」
わけのわからないことを言ってるのは今年もかわらない。去年、一昨年ともまったくかわっていないというのもいかがなものかとおもうけど。
宇宙の真理かどうかなんてわからないし、わかる必要なんてないとおもう。すごいおもう。でも、彼女がそういうなら、それが真理だということにしておいても構わない。
「紫原くん」
「ん」
「今年もよろしく」
こちらこそ。

20140101
しわを数えあいっこ