こういうのがずるいってことは、わかっているけど。
彼女を探して奔走してはや数分。
俺は、家のそばの公園でひとり無表情に氷菓子をたべる彼女を発見した。
この公園は彼女学校落ちこむとかならず訪れる場所であったので、見当はついていた。
「スガ…」
「ん、何食ってんだよ。こんな時間に」
夕飯食えなくなるぞー、なんて茶化せばべつにいいし、なんて拗ねた彼女の鼻声が聞こえた。不満げにアイスをたべる彼女の目もとはほんのり赤い。
泣いたことは、一目瞭然だった。
「スガ、性格わるいよ」
「何のこと?」
「わたしの失恋話をどこからきいた」
「…バレてましたか」
「バレバレです」
彼女が無謀な片思いをしていることは前からしっていたし、その思いが先刻あえなく玉砕されたことも、もちろんしっていた。だから彼女のためにわざわざ部活おわりに猛ダッシュしたわけだ。
ようするに、無謀な片思いをしているのは彼女だけじゃなかった。
「今のわたし、かっこわるいからあんまり見られたくなかったんだけどなあ」
スガはいつも、ひとりになりたいときに寄ってくる…と力なく呟く彼女に苦い笑みをこぼした。
そりゃ好きな女の子が弱っているときにそばにいたいと思うのは恋する男のさがなのだから、仕方ないじゃないか。
彼女よりも俺の方がずっとずるくて、ずっとかっこわるい。
「かっこわるいお前も、俺は悪くないとおもうよ」
「…なんかダジャレみたい」
「ひとがせっかく励ましてるのに、何てこと言うんだ」
笑ってごまかすのも、そろそろ辛いってことを彼女はわかっているのだろうか。たぶん、わかっていないだろうな。
彼女は何もしらない。俺がどうしてわざわざ彼女をさがして走ったかも、俺が彼女をどう思っているのかも。
彼女がまたアイスを一口かじる。ソーダ味のそれは、つめたくて美味しそうだ。
「それ美味い?」
たとえば、俺が今ここで彼女にすきだと言ったとして。
失恋のショックをべつのショックで緩和させるということはできるだろう。でも結局は彼女を困らせる。困らせたくない、悲しませたくない、笑っていてほしい。
もちろんそう考えてはいるけれど、それだけで満足できるほど、俺は優秀な人間ではない。
「夏の味がする」
「どんな味だよ」
「うるさい、ちょっとポエミーなこと言ってみたかったの」
「情緒不安定だなあ」
「フラれた直後ですから」
俺なら彼女をフラないし、極力、泣かせたりもしないのになあ。彼女が俺を選んでくれる日は、はたして来るのだろうか。そんなのわからないけど、俺は彼女に邪魔だと言われるまでは、そばにいようとおもう。
彼女がにぎっているアイスが溶けて、地面にぽたりとたれた。一瞬、彼女が泣いているのかとおもって焦った。
「一口くれよ」
本当は友だちなんて立ち位置もううんざりしてる。笑ってる顔も泣いてる顔も、俺がとなりで見ていたい。ほかのやつになんか、見せてほしくない。
そう言えるだけの勇気もないのだが。まあ、フラれるのがわかっていて告白するのは勇気でもなんでもない気もする。
だからこれがいまの俺にできる精いっぱい。
「溶けてるからぜんぶあげる」
「うわっほんとだ」
「スガのせいだから責任とって買いなおしてください」
「理不尽だなあ」
彼女のとなりで小さな理不尽をうけいれること、彼女のとなりで小さなわがままを聞いてあげること。それで彼女が笑ってくれるなら、いくらでも俺はがんばるのだ。なんて健気なんだろう。
「じゃ、これ食ったら帰るべー」
「今夜はかえりたくないの」
「おいてくぞ」
「やさしくないな」
「え、ちょうやさしいだろ」
「うんまあスガは基本的にやさしいけど…」
そりゃお前、すきな子にはやさしくするタイプだからね、俺。
彼女の片思いはこのまま消失するのか、それともこれから発展していくのか俺にも彼女にさえもわからないけれど。
笑う彼女のとなりで笑っていたいし、泣いている彼女を探して走り回りたいと、俺は本気で思うよ。
だから、どうか。消えることだけはしないでくれ、俺の可哀想な恋心。
20130812
想いはまだ内緒のままでいて