水。彼を表すのは、それだけで十分じゃないかとおもう。とにかく泳ぐのがすきで、たぶん水という概念から心底惚れているのではないかとおもうほどに、かれは水がすきである。おそらく前世は海洋生物にちがいない。

「あ、またそのかっこでサバを焼いてる」
「文句言うなら食べるな」
「文句じゃないからたべるね」
うら若き乙女に、水着にエプロンという姿をさらすのは、しょうしょうハレンチなのではないだろうか。今更かもしれないが。ハル君に服着せ隊の隊長(真琴)は任務をはたさないし、まったく何なんだこのへんの男子は。役たたずか。
ハル君が焼いたサバをもしゃもしゃ食べながら、ぺっと骨を吐き出す。ハル君はサバばかり焼いている。これも文句じゃないのであしからず。
「ところでハル君、おねえさんは君をちゃんと学校に送り届けるという義務があるらしいんだ」
「…真琴か」
「そうそう、真琴泣いちゃうから」
ハル君が授業サボりがちなことは、ナギちゃんや真琴から聞いている。彼は興味のないことには徹底的にムカンシンである。なんどもサボるのはよろしくないし、しんぱいになってしまうから、わたしがこうして参上した次第である。
「はやく着替えて仲良く登校しようじゃないか」
「……」
無視してサバを焼いているハル君にちょっぴりイラついたわたしは、静かに椅子から立ち上がり、彼の背後のエプロンのひもをほどいた。
「おい」
「ハル君、わたしの特技は他人の服をぬがせることよ」
全裸にされたくなければ、着替えてこいと目でつたえる。わたしの活かされることがほとんどない、というか下手したら捕まるような特技を活かすチャンスである。幼いころから言うことをきかないハル君の水着をぬがせにかかり真琴に泣かれた。うふふ、なつかしい。
「着替えてくる」
「あ、ぬがせてあげようか?」
「いい」
これが真琴やナギちゃんだったら顔を真っ赤にそめて怒鳴られていたことだろう。そういえば、リンちゃんには殴られたこともある。ううむ、ハル君はクールだ。サバ(三匹目)をかじりながら、感慨深いきもちになる。ハル君ももう高校生か。おおきくなったなあ。わたしと一個しか変わんないけど。
「ハルくーん、のどに小骨がささったよー」
「そういうのは真琴に言え」
スマホの天気予報のらんは今日も晴れ。今年の夏は猛暑になるとかいてある。うん、夏か。夏はいい。とくに何だというわけではないが、今年の夏はたのしくなりそうなきがする。
わたしは生臭い息を吐きながら、そんなのんきなことを考え、ハル君の着替えを覗くためにたちあがった。

20130710
プール掃除とはじまる夏