おかしい、こんなの絶対おかしい。
「どうしたの?及川」
「はっ!?何が!?」
「いや何がって…ちょう挙動不審なんだけど…」
部室で着替えるオレなんかまったく気にせず、他校の選手のデータを整理するマネージャーさまが怪訝そうにかおを歪める。時期的にはまだはやい半袖の体操着からのびる腕は白い。まあ室内競技だからだけど!
「ていうかなんで着替えてないの?帰らないの?」
「及川がいたら着替えらんないでしょーが」
「それもそうだね!」
落ち着け、落ち着くんだオレ。なぜ今さらマネジなんかにドギマギしてる?二年以上おなじ部活に所属していて今さら女として意識し始めましたーなんてありえない!
「及川、さっきから変だよ。汗すごいし、クールダウンちゃんとしたの?」
分厚いファイルを胸に抱えて、ちかよってきた彼女がオレのかおを見て、さらに渋いかおをする。思わずファイルに圧迫されている胸に目がいくってあああ!ちがう!これはそういうんじゃない!
「ちょっとあっち行っててくれる!?」
「なにキレてんの?ムカつくわあ、岩泉にチクってやる」
「ごめんなさい」
なんでだ!なんで急にこいつをそんな目で見るようになってしまったんだ。きっかけはなんだったっけ…ああそうだ確かふらついた彼女を後ろから支えて、そのからだが思ったよりも細くて軽くて、女の子のいいにおいがして…うわああ最低だ。俺は最低な男だ…。
「なんでもいいけど大会近いんだから、しっかりしてよ。影山に無様な姿さらす気?」
「プレッシャーのかけ方容赦ない…」
「うるさい、いつもオーバーワーク気味なんだから気を付けなさいってことだよ」
肩よりも少し上で切られている彼女の髪がゆれる。甘いような爽やかなような、いいにおいがした。中途半端に閉められたシャツのボタンを人差し指でかるく弾かれた。血液がグワアアとかおまで登ってくる。今なら血圧が以上な数値を叩き出す気がした。
「ちょっと今そういうのほんと止めて!?」
「はあ?」
「もうやだ、たちわるい!」
身長的にかんがえて、どうしたって上目使いになるし、なんか近いし、いいにおいがする。意識したとたんこれ?まじで?赤くなったかおを両手でおおって悶えていると、彼女は訳がわからないという感じでくびをかしげた。かわいいなチクショウ…。
「ちょっと、なんで今日そんなに情緒不安定なの。生理?」
「女の子がそういうこと言わない!」
「え、なんで急に女の子扱い?キモっ」
「うるさいな!」
そりゃ今まで女の子扱いなんかしてこなかったけど。急に女の子だと意識しちゃったら、今までどおりに接するなんて出来ない。
「女として見てるんだから仕方ないデショ!?」
なかばヤケクソで叫んだその言葉が部室におおきくひびく。なんだかこだましているような気さえする。目を見開いてポカンとしている彼女を見て、俺は自分が言った言葉を理解した。
「う、」
「おいか」
「ウワアアアアア」
「あ、ちょ及川!?」
鍛えられた反射神経で彼女がなにかいうまえに部室をでた俺は悪くない。この数分後に俺の荷物を持った彼女に見つかることになるのだが、それをこのときの俺が知る術はなかった。
20130519
只今恋患いの時間