!中学生
なんで、って聞かれるとよくわからないけど、たぶん俺は彼女がすきなんだとおもう。
ぴょこぴょこ揺れる二つ結びを目でおいながら、水分補給をする。メニューの確認なんか、桃ちんとやればいいのに。わざわざ赤ちんが言うこと、ないのに。赤ちんの言葉にちょっと笑って頷く彼女を見て、もやっとする。
「…赤ちーん」
「なんだ、紫原」
赤ちんを呼ぶと彼女の視線もこちらを向いた。並んで一つのバインダーを見ていた二人の距離は近い。わかってるくせに、赤ちんはそ知らぬふりで首を傾ける。イジワルだ。でもたぶんそれはおれが彼女に向けるすきと、赤ちんが彼女に向けるすきが同じだから。
無言で二人の間にわって入る。どうしたのと言わんばかりに見開かれた彼女の目が俺を映す。気づいけよ、ばか。
「いきなり何をするんだ」
「メニューなら、桃ちんと確認すればー?」
にこやかに細められた赤ちんの目と声色からは、ジャマするなという意思がつたわってくる。あきらかな牽制。でもダメだ、この子に関してだけは引くことはできない。
「彼女には彼女の仕事があるんだよ」
「…もっと離れてたって話はできるし」
赤ちんがバスケしてる時みたいにすばやく移動した。バインダーをかかえて困っている彼女を後ろから抱き締めたのだ。なんの準備もしていなかった彼女はかんたんに赤ちんの腕のなかに収まった。つめたい息をひゅっと吸い込む。
「別にいいだろう、嫌がってないんだから」
「良くない!!困ってる!」
「困っている人間が大人しく抱かれてると思うか?」
事実、彼女は眉を下げて困った顔をしている。赤ちんが彼女のゆわれた髪の毛先に触れる。やだやだ、赤ちんでも触っちゃやだ!あと抱かれてるとか言わないで、ナマナマシイ!
不機嫌になった俺に気づいた彼女は赤ちんの腕をやんわりと叩く。これはそろそろ離して、の合図だ。
「…残念」
赤ちんの体が彼女から離れる。彼女は困ったように笑って、赤ちんのほっぺたをかるくつまんで抗議したあと、俺を見た。まあるい目にはやっぱり困惑の色。
困らせてしまうのはわかっていたけど、ガマンできなかった。いつの間にかかたく結んでいた口を開く。
「おれも、ぎゅってしたい。赤ちんみたいに」
だから、来て。って言って手を広げて待つ。おれは赤ちんみたいに強引にしたりはしない。シンシ的なのだ。赤ちんがおれを見る目が厳しくなったのはわかるけれど、ムリ。赤ちんにだってこの子は譲ってあげられない。
仕方ないなあってかんじの困った顔で、ちょっとずつこっちに来た彼女を正面からすっぽり抱き締めてしまう。ちいさくて、柔らかくて、甘くて、おかしみたい。
「(すき、)」
かがまなきゃいけないから、彼女を抱き締めるのは大変だけど、少しだけ赤くなった耳とかほっぺとかを見ていると、そんなことはどうでもよくなってしまう。こんなにすき、なんだけどなあ。ライバルたくさんいるし、赤ちんに勝てる気なんかしないけど、それでもすきだ。だいすきで、どうしようもなくモヤモヤするんだ。
控えめにつかまれたシャツから伝わる熱は、彼女が恥ずかしいよ、っていってるみたいで、どうしようもなくイトオシクかんじた。
おれのきもち、伝わってるのかな。ねえ、聞いたら、ちゃんと答えてくれる?
20130603
じりじりと胸を焦がすのはきみのそういう態度のせい