「子ども扱いしないでください!」
今日はやけに不機嫌だなあ、なんて思っていたけれどまさか壁際に追い込まれてこんなことを言われるとは。彼女が迫ってくるから、思わず後ずさればすぐに壁が背中に当たってしまった。彼女の小さな体はすぐ目の前にある。
「ちょ、近いよ」
「はい、近づきました」
「っはなれて…」
俺のシャツをきゅっと握って、ぴったりくっついてきた彼女の目は不満気だ。みじろげば更に彼女は体を押し付けるように俺に近づいた。嘘みたいにやわらかい。…これはいろんな意味でまずい。
「スガさん、こっち見て」
「いやいやいや」
「…やっぱりだめなんですか」
体勢てきにどう考えても上目使いになっている彼女の顔を見ることは避けたくて、思いきり顔をそらしたのがお気に召さないらしい。怒っているというよりは悲しんでいるような彼女の声が気になったけれど、今の俺には彼女のことを気にする余裕はない。素数でも数えようか。
「わたしじゃ、ドキドキしませんか」
それでも彼女の声が震えているのに気付いてしまえば、見て見ぬふりは出来なかった。泳がせていた視線を彼女にむければ、そこにいたのはやっぱり上目使いで泣きそうになっている彼女で。人の気も知らないで、と文句を言いたくなる。
「どういう意味で、言ってるの」
「だってスガさんが!」
「おれ?」
「わたしのこと、妹とかいうから…!」
そういえば大地に彼女のことを妹みたいだとか何とかいったような気がする。それが彼女に伝わってしまったから、腹を立てているのか。たしかに、年下の彼女を妹のようにかわいがっている自覚はあるが、妹だったら、こんな変な気持ちにはならない。
「わたし、スガさんの妹じゃないです。もっと女として、見てください」
果たして彼女には自分がすごいことを言っている自覚はあるのだろうか。うるむ瞳に赤くなったほっぺた。彼女は男子高校生という生き物をまったくりかいしていない。そんなかわいい顔で、こんなに近くにこられたら、理性なんてがらくた同然だ。
「…ああもう」
壁に触れていた両手を彼女の腰にまわす。男はみんな狼なんだって、なんでわかんないかなあ。驚いて見開いた彼女の目を見つめながらおもう。こわがられないように、大事に大事にしてきたけれど、もう無理だ。がまんなんてできない。
「スガさん?」
「そんなに言うなら」
彼女の気持ちを考えずに妹みたいなんて言ったのはわるかったとおもう。でも、俺の気持ちを考えずにこんなことを言って迫ってきた彼女はもっとわるい。
「俺がどんな気持ちでお前を見てたか、おしえてやる」
こわがっても泣いても、もう遅いんだからな!


20130326
一言一句逃さずぺろり