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しょうもないな、と毎回思う。目の前にいるこいつらを見ていると。
「はあ?あん時お前、俺になんつったか覚えてんのかよ。“ハゲろインポ野郎”だぞ」
「あんたそれに“死ねブス”って返してたじゃん。おあいこでしょ」
酒が回ってくるといつもこうだ。5年も6年も前の別れ話をお互いぐちぐち怒っている。最初の頃は気まずく感じていたが、今となってはもう慣れてしまい、『あーまた始まったな』くらいにしか思わない。酔い覚ましに頼んだ烏龍茶を流し込む。
「お前らよく飽きないよな」
話を聞く限り最悪の別れ方をしたらしい二人が、どうして月一くらいで一緒に飲んでるのか分からない。別れたら普通気まずくなったりするんじゃないの。以前倉持にそう聞いてみたら、分かってねえなお前と返された。分かるか。
「飽きるとか飽きないとかじゃないんだよ」
分かってないな、御幸君は。倉持の元カノ様は俺を鼻で笑い飛ばす。いやいやいや。ほんとお前ら似た者同士だよ。


「送ってかなくていいの」
「いいよ。ていうか私がこの人送って帰るし」
「あ、そう……」
酔いつぶれた倉持をびっと指差し、そう言う彼女はかなり男前だ。部活のマネたちを思い出した。多分お前、運動部のマネージャーとか向いてたと思うよ、そう言えば、何の話?と笑われた。
「じゃ、おつかれ御幸君」
「……なー」
「何?」
「何で復縁しないの」
俺の言葉に、一瞬だけ目を丸くした彼女はすぐにいつもの顔に戻って笑う。お前倉持のこと好きじゃん。倉持だってきっとお前のこと好きだよ。酔いに任せて口にした言葉は、重力に従って地面に落ちていく。
「いいんだよ。別に、これで」
「……」
「今が一番楽しいから」
「……わっかんねー!」
結婚したらいい夫婦になりそうなのになってこの前沢村も言ってたし、何が問題なのか分からない。お前らの前に障害なんてひとっつもねえよ。見た感じだけど。
「私が分かってるからいいの!」
歯を見せて笑うその笑い方は、どこか倉持に似ていて、やっぱりあいつらお似合いだよなあ、とタクシーの中で思った。もし今後、二人の気が変わって、結婚なんてしちゃうことになったとして。万が一結婚式のスピーチとか頼まれても絶対してやんねえ。絶対。

20180330
脇役曰く